<阪神1-5巨人>◇8日◇甲子園

 「歴史的貧打」にあえいでいた巨人に「シンデレラボーイ」が出現した。プロ初登板初先発の2年目宮国椋丞(りょうすけ)投手(19)が7回3安打1失点でプロ初勝利。前日7日まで3試合連続完封負けを含む5連敗、31イニング連続無得点の球団ワーストタイ記録と沈黙が続いていた打線も、打線をテコ入れして今季最多13安打を放った。同じ日曜日の1日以来の今季2勝目で、浮上のきっかけをつかめるか-。

 宮国は「楽しむ」ことだけに集中した。初登板初先発を初勝利を飾り、巨人では83年の槙原以来29年ぶりの快挙を達成したヒーローは「すごい楽しかった。野手の方が点を取ってくれてテンポもリズムよく、楽しく投げられました」と、うれしそうに笑った。

 超満員の甲子園で球場全体から受ける独特の威圧感などものともしない。1回、2回は3者凡退で滑り出した。3回、先頭打者に四球で歩かせたが小宮山を内角直球で二ゴロ併殺。4回は無死一塁で鳥谷に緩いカーブを打たせ、二ゴロ併殺。7回無死一、二塁で4番新井貴に適時打で1失点は許したが、ブラゼルを投ゴロ併殺に打ち取り最少失点で切り抜けた。この日の最速は146キロ。「すごく新鮮でした。阪神ファンが多い中で投げて逆にそれが力になりました。7回?

 一番、楽しい場面でした」と遠慮がちに小声で明かす姿も宮国らしかった。

 野球を楽しむ-。それが最大のテーマであり、原点だ。「初めて野球チームに入ったときが今までで一番、楽しい日だった」。小1年のとき、ジャージーのパンツに半袖の姿で意気揚々とグラウンドに向かった。母優子さん(51)は「『僕、野球部に入ってきた』と、すごくうれしそうでした」と、当時を振り返る。その日から約1カ月後、1、2年生だけで初の対外試合で初先発し、結果は0-64で大敗。父透さん(51)は「まだルールも分からなかったしね。笑っちゃうぐらい打たれていたけど、楽しそうでしたよ」と、甲子園のマウンドで好投する息子を見つめた。

 出発前の宿舎。午前9時ごろ、朝食会場に早々とユニホーム姿でいたことが原監督を驚かせた。「おい、椋丞。今日は1時50分くらいでいいんだよ。2時からが君の時間になるわけだから」と声をかけられたという。「なんか、少年野球の選手が試合前に早めにユニホームを着て意気揚々としている、緊張感の中でね。そういう姿を彼に見た気がして新鮮でした」と指揮官に懐かしそうにつぶやかせるほど、周囲にも意気込みが伝わってきた。

 ウイニングボールは両親にプレゼントする。「『ありがとう』って言って渡したいけど、たぶん普通に渡すだけになっちゃうと思います」。照れ笑いを浮かべる弱冠19歳が、ものすごい仕事をやってのけた。【為田聡史】

 ▼2年目の宮国がプロ初登板を白星で飾った。巨人投手の初登板初勝利は新人の野間口が05年5月1日広島戦で記録して以来だが、宮国はまだ19歳11カ月。巨人で10代の投手が初登板初勝利は、宮国と同じく高卒2年目の槙原が83年4月16日阪神戦で完封勝ちして以来、29年ぶり6人目だ。過去5人の通算勝利を見ると、打者へ転向した川上は11勝、戦争で亡くなった広瀬は29勝も、中尾はチーム2位の209勝、堀内は同3位の203勝、槙原は同8位の159勝。巨人を代表する投手へ成長していったが、宮国はどうか。