<広島3-0ヤクルト>◇29日◇マツダスタジアム

 広島のルーキー野村祐輔投手(22)が、不思議な投手交代でプロ初完封を逃した。ヤクルト4回戦(マツダスタジアム)に先発し7回途中まで無安打の快投。8回まで1安打無失点と完封ペースだったが、野村謙二郎監督(45)は3点リードの9回に抑えのサファテを投入した。野村の投球数は8回まで100球。投手の勲章といえる完封、しかも今年の新人では一番乗りの名誉を超えるものが、この交代の裏側にあったのだろうか。

 野村は球数100球で8回1安打無失点と文句ない投球を続けていた。今年の新人では一番乗りで、プロ初完封が期待された9回のマウンド。だが、野村監督は抑えのサファテをマウンドに送った。

 事情があった。前日28日の同戦、今季初めて3点差を逆転し、1点リードで9回を迎えた。前回登板の26日阪神戦(甲子園)でサヨナラ負けを喫していた守護神も、名誉挽回に意気込んでいた。だが、名前を呼ばれたのはミコライオ。サファテのプライドは傷つけられ、チームも逆転負けを喫した。

 この日の試合前。野村監督はサファテと話し合いの場を設けた。「あの状況で使わなかったのはミスだった。お前がこのチームの抑えだ」。潔く、謝罪した。そして、こう決め込んでいた。「セーブシチュエーションなら、サファテに行ってもらう」。本当なら、野村を続投させたいところだっただろう。しかし、今後のことを考慮して、個人記録よりもチーム事情を優先した。

 9回を無失点に抑え、球団新記録となる月間7度目の無失点勝利に貢献した守護神は、試合後にこう語った。

 サファテ

 役割を任されているピッチャーは試合前から、精神と体を整えている。同点ならミコ、逆転していたらボクだというのは、自分たちの中で出来ている。その役割を変えられるのは投げづらい。ミコがかわいそうだし、自分もやり切れない。今後こういうミスはあってほしくない。

 何より救われたのは、野村がチームの事情を理解していたことだ。

 野村

 (完封の意識は)ないこともないですけど、勝ちパターンで勝つとチームも乗っていくので。

 もし、7回1死一塁からミレッジの安打が生まれてなければ、もし、前日の一件がなければ…。野村監督はすべてをのみ込み、「完封に匹敵するような、それ以上の投球をしてくれた」とルーキーを絶賛した。

 野村は次回、初の中5日で5月5日ヤクルト戦の登板が濃厚。明大時代に30勝、300奪三振を記録した神宮のマウンドで、プロ初完封に再び挑む。<広島野村監督のビックリ采配>

 ▼11年10月20日中日戦(マツダスタジアム)

 広島先発前田健が7回表に1点こそ失うも毎回15奪三振。セ・リーグタイ記録にあと1個だったエースに、野村監督はその裏代打を投入。「記録は知らなかったけどチームの勝ち、マエケンの勝ちを優先した作戦」と説明。前田健は112球で降板。8回に追い付いた広島が9回、白浜のサヨナラ打で2-1と勝利。

 ▼12年4月24日阪神戦(甲子園)

 前田健が6回1死まで無安打と快投。堂林の1号で1点リードした8回も3人で抑え、2安打106球と完封ペースだったが9回はサファテに。1-0で勝利を収めた。