<日本ハム4-1楽天>◇11日◇東京ドーム

 新外国人「アブちゃん」が、2戦連発弾でチームに今季初の連勝をもたらした。日本ハムのミチェル・アブレイユ内野手(34)が、1-1の8回に決勝3ランを放った。2月にテスト入団した助っ人は、開幕からレギュラーに定着。中田翔内野手(23)らに並ぶパ・リーグトップタイの今季3号を放ち、すっかり頼れる存在だ。

 屈強な肉体を小躍りさせながら、歓喜の列へと飛び込んでいった。魅力的なキュートな笑顔を振りまいてアブちゃんが、一塁側ベンチで出迎えた栗山監督と力いっぱいハイタッチした。1-1とこうちゃく状態の8回2死一、二塁。楽天美馬のスライダーを、読み切った。3球連続直球で2ボール1ストライク。「スライダーを狙っていた」。高めに浮いた絶好球を完璧に仕留め、左中間席まで突き刺した。

 沸騰していた反骨心を一振りに込めた。2月の春季キャンプで入団テストを受け、新しい野球人生をつないだ。キューバ出身で元代表選手のエリート。04年2月にボートでメキシコへと亡命。その後、コスタリカへと渡り、マイナー契約するなどして大リーガーを目指したが、メジャー昇格の夢は果たせず。「日本で成功したいと思って決めてみたんだ」。34歳、新天地での再出発に賭けた。

 暗中模索のスタートラインだった。初来日した2月8日。沖縄・那覇からキャンプ地の名護まで車中、空腹のためチーズバーガーを胃袋に詰め込み挑戦を始めた。打撃を見初められて合格。年俸2000万円と格安で入団した。オープン戦期間中はちょうど日本でWBCの1次ラウンド中。遠くなったが、思いが深い母国キューバ代表が奮闘。主砲で親友のセペダらの活躍に刺激を受けながら、開幕レギュラーを勝ち取った。

 実直な性格でチームに「アブちゃん」の愛称でとけ込んだ。99年キューバ代表でプレーした思い出の東京ドームで、前夜の代打アーチを含む2試合連発弾。結果でも周囲の信頼をさらに厚くした。楽天にはあこがれたメジャーで活躍したジョーンズ、マギーの今季話題の助っ人がいたが、自分の足元を見つめていた。「彼らは素晴らしいキャリアを持っているし、意識はしない。自分は少しでも長く日本でやりたい」。アブちゃんの真っすぐな思いは、執念の放物線に宿った。【高山通史】