エースが「風穴」を求めた。阪神能見篤史投手(34)が18日、球団事務所で契約交渉を行い、3000万円増の推定年俸1億5000万円で更改した。来季、国内FA権を取得する左腕は球団に優勝への課題としてコミュニケーション不足を主張。投手陣リーダーの自覚を示した。これで阪神は全選手が契約を更改。交渉での保留者はゼロだった。

 心底納得することはできなかったのだろう。会見場で能見は終始、神妙な表情を崩さなかった。

 「いい評価をしてもらえてるという感じはしました。チームの柱としてやってもらっているという評価をいただいたので」

 3年連続2ケタ勝利に加えて、4つの貯金をつくり、180イニング以上を投げた。球団の評価も見合ったものになり、1・5億円プレーヤーの仲間入り。だが、どうやら能見の本題はその後にあったようだ。

 「投手目線からの話、来季に向けて投手はこう思っていますよというのを伝えさせてもらいました」

 高野球団本部長に訴えたのは意思疎通の重要性。優勝するために能見が感じてきたことだったという。

 「全体でいい方向にいかないといけない。うまくコミュニケーションしながら、キャッチボールしないとお互いのことはわからない。投手と野手の考え方は違う。選手の思いというかそういうものもある。今年思うところも少しありましたし。やはり、前に進んでいかないといけないので…」

 具体的な事例を挙げることは避けたが、今季の戦いの中で課題を感じたようだ。投手と野手、選手とベンチ、そしてチームと球団。すべてが、あうんの呼吸とはいかない。伝えなければ理解されないこともある。能見に限らず、グラウンドで選手が目に見える形でそんなストレスを表現したシーンもあった。

 来季に向けては、2月1日キャンプインでのブルペン入りに準備を進めているという。その先には当然、開幕投手も視野に入ってくる。

 「チームが勝利に向かっていけるように、しっかりと先頭に立ってやっていかないといけない」

 伝わってきたのは勝利への強い欲求とエースとしての自覚だった。【鈴木忠平】