<オリックス0-2楽天>◇2日◇京セラドーム大阪

 やっと、やっと、勝てました。楽天松井裕樹投手(18)がプロ8戦目で初勝利を挙げた。5回途中から2番手でマウンドに上がり、2回1/3を2安打無四球無失点に抑えた。開幕直後はフォームに悩み制球が安定しなかったが、2軍降格後に一変。投球後に跳びはねるような豪快な投げっぷりで5三振を奪った。この日、大久保博元2軍監督(47)が1軍監督代行に就任。ファームで助言をもらった恩師の初陣を勝利で飾った。

 初登板の4月2日からちょうど3カ月。松井裕は初勝利の感想を問われると「長かったですね。いろいろつらいこともあったんで。野手の方にも根気強く守ってもらったり」と照れくさそうに笑った。ようやくつかんだウイニングボールはそっとポケットの中へとしまった。

 勝ちか、負けか。2点リードで迎えた5回2死一、二塁で送り出された。森山投手コーチに「抑えたら勝ちがつくかも」と言葉を添えられて。「ペーニャを何としても抑えよう」と目の前の打者でいっぱいだった。カウント1-1からの3球目。外角低めに落ちる123キロのチェンジアップでタイミングを外す。二ゴロに仕留めると「よっしゃ!」と叫び、ベンチへ走りだした。

 どうしても欲しかった1勝をつかむのに「無心」が必要だった。開幕後、勝ちたいという思いが強すぎてフォームを崩した。制球難で四球を与えてはいけない。思えば思うほどリリースポイントが横になった。球威は落ち、球の出どころも見えやすくなり、連打された。「いっぱいいっぱいでした。これまでは人生で勝ちたいって思ったのは2回だけ。高校最後の夏と(日本代表)アメリカ戦。でもそういう時って負けてるんですよ。自分の投球ができなくなっていた」と振り返る。

 佐藤投手コーチからは「持っている球は一級品」と評されていた。あとは気持ちの強さだけ。2軍を経験し、中継ぎとなり、毎試合準備する大切さを痛感した。「勝つって大事なんですけど、勝ちたいじゃなくて、勝つための準備をして、自分の持ってるものを出すってことが大事なんですね」。勝ちたいと思う気持ちよりも、打者に挑む闘争心を思い出した。

 だからこそ力いっぱい投げ抜いた。4者連続を含む5奪三振。7回の最後の打者糸井には「ボールになったけど、気持ちを入れて投げました」と直球で空振り三振を奪った。試合後にはすぐ、お世話になった人に電話をかけまくった。「星野監督には『まあまあ。これからも頑張れ』と言われました」。ようやくつかんだ勝ち星の後に見せた表情は、無邪気な笑顔だった。【島根純】