<阪神1-0ヤクルト>◇2日◇甲子園

 徳俵は死力を振り絞るためにある。阪神岩田稔投手(30)はマウンドで1歩も引かなかった。何度も訪れた絶体絶命の危機で踏ん張った。3回には2死満塁になり、好調山田と向き合うとギアを切り替える。初球の直球でファウルさせ、足元にフォークを3連投。バッテリーを組む梅野もワンバウンドを必死に止め、空振り三振で窮地を脱した。

 「スライダーが全然、ダメだった。フォークがいいところに決まってくれた。(梅野が)止めてくれると思った。思い切り投げられましたね。1人1人アウトを、1個1個、抑えていこうと思いました」

 先制した後は防戦一方だった。4回無死二、三塁。5回1死二、三塁。6回1死二塁。気が遠くなるような危機を耐えた。5回、外角低めフォークで見逃し三振に倒れたヤクルト川端は言う。「ピンチになってからの方が、いい球が来ていた」。相手打線が脱帽する気迫の力投で、7回を今季最多8奪三振で無失点。2軍の鳴尾浜から蓄えた無精ひげの風貌で、能見、メッセンジャー、藤浪と並ぶチームトップの5勝目を1カ月ぶりにつかんだ。

 後悔のないように、精いっぱい、いまを生きる。昨季は2勝止まり。背水のシーズンを迎え、キーワードは「30」だ。昨年末は米国アリゾナ州で自主トレし、同じ施設で汗を流すレッドソックスのスター、ペドロイアに発奮。「同い年ですよ。負けていられない」。そして、もっと刺激になった生きざまが目の前にあった。鳥取市内のトレーニング施設「ワールドウィング」で練習したときに、ある事実を知った。

 「山本昌さんが、この施設で練習を始めたのは30歳のときらしいんです。自分もまだまだこれからです」

 球界最年長左腕の中日山本昌は48歳。節目の30歳で14年に挑み、最高の手本だった。上には上がいる。だから、向上心を持てる。痛打されても前を向ける。心のありようこそ、岩田稔の最大の武器だろう。

 チームの勝率を5割に戻す奮闘ぶりだった。主戦の能見が左脇腹痛で戦線離脱する先発陣の一大事で、強烈に存在感を知らしめた。【酒井俊作】

 ▼阪神がヤクルトに連勝、交流戦前の5月16日~18日のDeNA戦に2勝1敗以来、14カードぶりに勝ち越しを決めた。交流戦12カードで連勝が1度もなく1勝1敗が9カード、2連敗が3カード。交流戦明けの中日戦も2敗1分けだった。