<広島4-0巨人>◇15日◇マツダスタジアム

 巨人打線が、広島前田の前に沈黙した。直近2度の対戦で連続KOしていた。1回1死二塁の先制機を逃すと、2回以降のマエケンは別人だった。ミットを抜ける勢いの直球、ミットの近くで大きく曲がるスライダー。代名詞に牛耳られ、8回まで2安打では仕方がなかった。

 1回しかチャンスはなかった。原辰徳監督(56)も「初回、非常に不安定なところを、しのがれたのがね」と指摘した。25球を要した立ち上がりは、投げにくそうに映るバラツキがあった。空振り三振の坂本、二ゴロの阿部。勝負球はさすがのコースだった。が、勝負に至る過程には仕留めるべきボールがあった。

 千載一遇のチャンスだった。カープの大エースを3回連続でつぶしていれば、この先の大一番に大きなダメージを与える可能性が高かった。CSなどの短期決戦は先手必勝が定石だが、相手からすれば前田の起用にためらいが生じ、ためらいを出発点とした先発ローテの変更が容易に想像できた。仮に前田が巨人との第1戦に先発しても、精神的には確実に有利に立てた。

 こんな妄想は水泡に帰した。WBCで日本の命運を託されるほどの男に、2度あることは3度もなかった。原監督は完封負けに「そんな、珍しいことじゃない。明日は打ってくれる」と述べた。明日はもちろん、ゾンビよろしくよみがえったマエケンを、秋の決戦で砕く。【宮下敬至】