<ヤクルト1-9広島>◇25日◇神宮

 広島が意地を見せた。ルーキー大瀬良大地投手(23)が、7回5安打1失点の好投で10勝目を挙げた。新人の2ケタ勝利は一番乗りで、球団では97年沢崎以来。新人王へ大きく前進した。打線も、鈴木誠が日本人選手ではセ・リーグ初となるプロ1号の初球先頭打者本塁打に始まり、15安打9点で圧勝。巨人が優勝決定する可能性があった日に、カープが踏ん張った。

 投げ終わった後、何度も体が一塁側に流れた。大瀬良は荒々しくストライクを投げ込み、7回1失点で2ケタ勝利を決めた。「いつも大事に行きすぎて打たれる。もっと大胆に、と。打たれてもいいや、ぐらいの気持ちでした。(10勝目は)ひとつの目標だったので、うれしいです」。豪快な投球には、わけがあった。

 9月中旬、1冊の本を熟読した。九州共立大時代の恩師、仲里清前監督の著書「エース育成論

 九州の大学野球を変えた男」だ。大瀬良について書かれた第1章を読み終え、自分の弱点を再認識した。「多分、(不調だった)交流戦の前後に書いたんだと思うけど、『優しさがマウンドに出てしまって心配だ』と。気をつけないといけない」。多少甘く入ろうと、自慢の直球で内角を突く。恩師の理想像に近づいてみせた。

 2月、沖縄キャンプ中のこと。関係者から笑い話を聞かされた。ある雑誌で女性タレントの1人が好きな野球選手について語っていた。「広島の大平投手が大好きで…」。後述されたエピソードを見る限り、大瀬良のことだった。「ほら、僕なんて、しょせんそんなもんです。頑張ろう!」と爆笑。10勝目を挙げて新人王最有力候補に躍り出た今なら、もう名前を間違えられることもないだろう。

 大瀬良ファンは全国各地にいる。5月下旬の仙台遠征中、繁華街を歩いていると、楽天のユニホームを着た中年男性に呼び止められた。「楽天とか広島とか関係ない!

 僕はあんたのことが大好き!」。男性が使用するはずだった湿布10枚セット、そして板チョコを即席プレゼントとして渡された。「なんかうれしいですよね」。恩返しは結果で体現し続けるつもりだ。

 CSでも前田、ヒースに次ぐ先発要員として期待される。「大事なところで投げさせてもらえるような信頼を得たい」。大舞台での快投が早くも待ち遠しい。【佐井陽介】