阪神新井貴浩内野手(37)が4日、退団を申し入れて了承された。3年契約最終年の今季は代打要員に甘んじ、交渉では年俸2億円から野球協約の定める制限を超える1億円以上ダウンの8000万円を提示されていた。レギュラーとして勝負できる環境を求めて、自由契約となることを選択。古巣広島が受け入れ態勢を整えるなど、大砲の復帰に興味を示した。(金額は推定)

 勝負の世界で命を削ってきた男は、ポリシーを曲げなかった。新井貴が野球人生の大きな決断を下した。この日の朝。南球団社長が球団事務所に到着するのを待ち構えた。顔を合わせ、思いを伝えた。

 「配慮をいただいたのですが、自由契約を選ばせていただきます。1軍の試合にどんどん出たい思いが強くて、自由契約にして、どこか自分に活躍の場を与えてくれる球団を探します」

 07年オフに広島からFA宣言して阪神に入団。7年目のシーズンを終えた結末は自由契約だった。今季は新外国人ゴメスを一塁で起用するチーム方針のあおりで、代打要員に甘んじた。出場機会は減り、日本シリーズ直前には腰を痛めて大舞台にも立てず。交渉で提示されていたのは今季年俸2億円から1億円以上ダウンの推定8000万円。野球協約で定められた減額制限(年俸1億円以上の場合は40%)を超えていた。このケースは選手の承諾が必要で、受け入れない場合は自由契約選手になる。

 だが新井貴がこだわったのは大減俸ではない。甲子園の駐車場で「(決断は)つい最近かな。最後に、もう1回、競争できる環境に身を置きたかった。自由契約という道を選んだら、間違いなく阪神の提示より下がるのは分かっている。そういうことを踏まえた上で、年俸とかじゃなく、もう1回、最後に競争したいなと思った。はっきり言って(年俸は)もらいすぎ」と心境を吐露した。

 来季も代打での起用が決定的だった。家族会議では、裕美子夫人から「あなたの野球人生だから、悔いのない決断をしてください」と後押しされた。師と慕う金本知憲氏にも報告。優勝したくて阪神に移籍し、11年は打点王に輝いた。だが頂点に立てず、志半ばだろう。古巣広島は受け入れる態勢を整える。年明けの1月に38歳になるベテランがもう一花咲かせるために、あえて険しい道に入っていく。

 ◆年俸の減額制限

 野球協約92条に定められている。次年度の年俸は、その年度の年俸が1億円を超える場合は40%、1億円以下の場合は25%を超えて減額されることはない。選手の同意があれば減額できる。