貨物船が浮かぶ紺ぺきの海、断崖絶壁で砕け散る白波。快晴の読谷村・残波岬にのどかな時間が流れていた。すると車道が途切れた向こうの方から、トレーニングウエアで駆けてくる人物がいた。「エっ、もしかして鳥谷さん?」。観光客カップルが驚いて振り返った姿は、まさしく阪神の鳥谷敬内野手(33)だった。16日のキャンプ休日を返上した、サプライズの岬めぐりランニングだった。

 「(取材は)ダメですよ~。ダメダメ」。記者との鉢合わせに鳥谷も驚いたようだった。だが走りを止めることなく白亜の灯台をぐるりと1周。戻ってくるともう1度、「(取材は)ダメですよ~」と笑いながら、奇岩が並ぶ絶景の散策コースを駆け抜けて行った。

 残波岬はチーム宿舎から約1キロほどの景勝地。高さ31メートルの灯台は、「沖縄で一番高い灯台」と看板に記されている。虎のキャプテンが、“沖縄のテッペン”を目がけて走った姿は、10年ぶり優勝を目指すチーム進路にもダブる。何より、サングラス越しにこぼれた笑みが、ここまでの順調仕上げを物語っていた。

 今季初実戦の前日の紅白戦に「4番遊撃」で出場。ヒットは出なかったが犠飛で15年初打点をマークし、選球眼よく四球も選んだ。守備でも深い三遊間のゴロを難なく処理。調整はいたって順調だ。

 「キャプテンという立場で、優勝に向けてしっかりやっていきたい」。2月1日前夜、力強くそう誓い、今キャンプに臨んだ。目標達成へ、休日も人知れず体を鍛える。背中で心意気を示した主将の残像が、残波岬に残った。【松井清員】