<東京6大学野球:慶大5-0東大>◇11日◇神宮

 慶大が2戦連続2ケタの10安打で東大に完勝、勝ち点1とした。1回2死一、三塁から5番伊場竜太内野手(4年=慶応)が先制打。3月の東日本大震災で津波被害があった千葉・旭市出身で、ちょうど半年のこの日に3安打の活躍を見せた。

 ほとばしる熱い思いが、伊場のバットに乗り移っていた。伊藤が四球を選んだ後の1回2死一、三塁。2球目を左前に運び、前日1回戦で奪えなかった先制点をたたき出した。再度伊藤が歩いた後の第2打席も左前打でつないだ。3安打の固め打ちに江藤省三監督(68)も「調子がいいですね」とうなずいた。

 あの衝撃から6カ月の節目の日を思い、伊場は「勝てて良かったです」と天を仰いだ。3月、九十九里浜北部にある故郷、千葉・旭市を津波が襲った。春のリーグ戦開幕直前に「自分の目で確かめたかった」とオフを利用し帰郷。実家に被害はなかったが、幼いころに行った温泉宿の浸水後の様子や荒廃した海岸を、1人見て歩いた。

 春はリーグ優勝。だが捕手の座を後輩の阿加多に奪われ出番が減った。6月の大学選手権決勝では指名打者で1人2安打と気を吐きながら、東洋大に敗れ去った。くしくも自分の誕生日だった。

 この秋は一塁手。ただ、雪辱の思いよりも「こんな状況でも、野球ができることを幸せに思う」と言葉に力を込める。卒業後には、被災地・宮城にある社会人野球の企業チームでプレーを継続する見込み。入社試験のため、今日12日に宮城に入る。現地の復興は、まだまだ先。「行ってきます」と言うと、その表情は強く引き締まった。【清水智彦】