2010年10月5日
小関順二のドラフト日記(9・27~10・3)
早大1回戦で斎藤と投げ合い勝利投手となった東大・鈴木
◇9月27日(月)自宅
日刊スポーツの1面はソフトバンク優勝の記事で飾られていた。ページを捲れば4面までホークス1色。5面には優勝を目前にしながら後退した西武・渡辺久信監督の「責任感じてる」が見出しになり、明暗は露骨である。
4面にはソフトバンク先発左腕の充実ぶりも紹介されている。
和田 毅 17勝8敗、3・14 ※最多勝
杉内俊哉 16勝7敗、3・55 ※最優秀投手(最高勝率)
大隣憲司 4勝9敗、4・31
小椋真介 4勝8敗、5・29
山田大樹 4勝4敗、4・60
陽 耀勲 2勝0敗、2・20
これにリリーフ投手・森福允彦の3勝1敗を入れると50勝37敗になり、右合計の26勝26敗を大きく上回る。ソフトバンク優勝はまさに先発左腕陣の存在なくしてはあり得なかったことがわかる。さらに、左腕とともに充実しているのがリリーフ陣である。
馬原孝浩 5勝2敗32セーブ、防御率1・63
ファルケンボーグ 3勝2敗42ホールドP、防御率1・02 ※最優秀中継ぎ投手
摂津 正 4勝3敗42ホールドP、防御率2・30 ※ 〃
甲藤啓介 2勝0敗17ホールドP、防御率2・96
勝利の方程式「摂津→ファルケンボーグ→馬原」が盤石で、摂津につなぐ甲藤たちの活躍も見逃せない。この陣容を見れば今ドラフトでの補強ポイントは先発の右投手ということになるが、既定路線は早大の守護神・大石達也(福岡大大濠高出身)ともっぱらの評判である。
09年秋の早慶戦2回戦で先発経験はある。このときは4回投げて9被安打6自責点でKO(この敗戦で明大の優勝が決まる)されているので、適性はないと見たほうがいい。それでもソフトバンクは大石の1位指名を敢行するのだろうか。
◇9月28日(火)自宅
スポニチ1面は西武・渡辺久信監督がV逸の責任を感じ、球団に「進退伺」を提出したと報じている。9月11日にマジック4を点灯させ、ソフトバンクとの直接対決(3連戦)で一挙に優勝を目論むが、何と3連敗。さらに連敗を重ね、歴史に残る大逆転負けを喫してしまった。責任を感じるのは当然である。
8月28日に1・66だった防御率が最終的には2・57まで降下したシコースキー。同日3・28だった藤田太陽は3・91まで落としている。V逸の原因がリリーフ投手陣にあることは火を見るより明らかで、この問題は今季だけでなく昨年から続いている西武のアキレス腱と言っていい。ここに手をつけて強力な投手陣を再生させてから辞任するというのが渡辺監督の取るべき道ではないのか。
シコースキー 2勝5敗33セーブ、防御率2・57 ※最多セーブ
藤田 太陽 6勝3敗25ホールドP、防御率3・91
長田秀一郎 5勝3敗22ホールドP、防御率3・31
岡本 篤志 2勝1敗12ホールドP、防御率3・09
小野寺 力 1勝3敗 9ホールドP、防御率3・67
ソフトバンクリリーフ陣との安定感の違いに愕然とする。ドラフトで誰を指名するのか耳に入ってこないが、ここまで話を進めればリリーフに適性のある即戦力投手がターゲットになることは小学生にもわかる理屈である。そんな適材は候補選手中、大石達也(早大)しかいない。決して絶好調とは言えない秋季リーグ戦だが、打者の手元でホップするような球筋のストレートは藤川球児(阪神)を彷彿とさせる。ソフトバンクが沢村拓一(中大)、西武が大石…。これが真っ当な1位入札だと思うが、どうだろう。
◇9月29日(水)大宮公園球場
秋晴れの。ひさしぶりに大宮公園球場に出かけた。第1試合は埼玉栄-大宮東という県内で一時代を築いた同士の対戦、第2試合は正智深谷-浦和学院戦である。
第1試合では夏に注目した埼玉栄の三塁手、鈴木良(右右・181-77)が打ちに行くときバットを寝かせる変則打法に変わっていてがっかりした。第2打席で二塁打を放ち、打球方向は右翼。その次は二塁ゴロ。この打球方向に病巣が隠されている。
大宮東の三塁手、高山亮(右右、182-82)も大型のスラッガータイプだが、こちらは打ちにいくときグリップが下がるヒッチと、体が外に逃げるアウトステップの合わせ技で素質を殺していた。大きな体の動きや反動はピッチングにもバッティングにも益をもたらさない。
第2試合では浦和学院に好素材が集中していた。
森 光司(捕手・右左・179-78)
小林 賢剛(遊撃手・右左・176-73)
沼田洸太郎(三塁手・右右・180-84)
石橋 司(中堅手・左左・182-74)※1年
沼田はラミレス(巨人)っぽく、最初からヘッドを浅く投手の方向に入れて構えるので、ヘッドが遠回りして出ていくクセがある。第1打席がライトへの二塁打、第2打席が右飛とクセが反映した結果が出ているが、第3打席は左前打、第4打席はレフトへのホームランと好結果が出ている。ホームランは外角低めのストレートを打ったもので、ヘッドが遠回りせず最短距離で出ていく(浅い縦軌道)打ち方に変わっていた。こういう修正能力の高さを見せつけられると高く評価せざるを得なくなる。
◇9月30日(木)自宅
国体が今、行われているが、これまで国体の野球を一度も見たことがない。髪の毛が伸びた野球部員は既に現役の選手ではないと思うし、さらに硬式野球の勝敗が得点にならないことも知り、興味を失った(軟式野球は勝敗が得点になる)。国体に代り、各都道府県がピッアップチームを作って対戦する、この場合は新チームの秋季大会に影響しないように3年生だけでピックアップチームを構成する-。そんなことを何度思ったか知れない。甲子園まで行けない東日本の高校野球ファンのためにも、全国大会のせめて1回は、首都圏で開催してほしい。これは関東の野球ファンのほとんどが思っていることである。
楽天・ブラウン監督の解任も報じられていた。日刊スポーツ紙は後任候補として桑田真澄(元巨人など)を筆頭に、東尾修(元西武監督)の名前を挙げ、翌日には星野仙一(阪神シニアディレクター)も候補と伝えているので、まだまだ紆余曲折がありそうだ。
桑田は未知数だが、東尾は西武時代の実績からめざす野球の道筋が見えてくる。94年まで9年間続いた名将森祇晶のあとを継ぎ、95年から01年まで7年采配を振るって、1位2回、2位2回、3位3回の成績を残した。
森時代の後期や東尾時代の前期は全盛時代のメンバーがまだ残っていたが、徐々にFAやトレードで姿を消していった。そのあとをたどっていこう。
秋山幸二 94年 トレードでダイエー
渡辺智男 94年 トレードでダイエー
平野 謙 94年 自由契約でロッテ
工藤公康 95年 FAでダイエー
石毛宏典 95年 FAでダイエー
辻 発彦 96年 自由契約でヤクルト
清原和博 97年 FAで巨人
この非常事態を東尾は若手の抜擢で凌いだ。打者なら鈴木健、垣内哲也、松井稼頭央、大友進、高木大成、小関竜也たちで、投手なら西口文也、豊田清、石井貴、森慎二、松坂大輔たちが抜擢され、崩れそうだった屋台骨を支えた。桑田監督は魅力のあるプランだが、東尾の実績も見逃せない。楽天上層部が誰を選ぶのか興味深いが、三木谷会長と仲がいいから、などという理由で選ばないようにお願いしたい。
◇10月1日(金)東京・水道橋
日刊スポーツ紙1面を「横浜身売り」の見出しが飾った。巨人の渡辺恒雄球団会長が横浜の親会社・TBSを代弁するように「残念だけどTBSも事情があるし~」と報道陣に語り、明らかになった。売却先の有力候補には「住生活グループ」が挙げられている。
傘下にトステム、INAX、新日軽、サンウエーブ工業がいると聞くと、「ああ、でかい会社なんだ」と思うが、知名度は低い。球界参画によって統一ブランド「LIXIL(リクシル)」の知名度アップを狙っているんだなということは誰にでもわかる。
本拠地には横浜スタジアムとともに、プロ野球の誘致を行っている新潟の「ハードオフ新潟」が有力視されている。
球団譲渡は11月30日までに承認を得る必要がある、ということは10月28日に行われるドラフト会議には現体制で臨むことになる。オーナー会社が代わってもスカウト陣の顔ぶれは大きく変わらないはずだが、これを機に指名のやり方を変えてはどうだろう。
横浜はこれまで大学とのパイプは明大、日大と太く、高校は横浜高校出身者が多かった。球団の歴史や地域性もこの傾向に拍車をかけたのだが、こういうパイプを取っ払って、選手重視でドラフトに臨む、いわばドラフトの原点に立ち戻ってみてはどうだろう。せっかくチームが一新されるのである。マイナス思考にならず、前向きな発想で荒波に立ち向かったほうがいい結果が出るはずである。
そんなことをつらつら思い、夜は久しぶりにドラフト会議倶楽部の南雲孝一、小松原弘文両氏と水道橋で酒を飲んだ。友達と飲むのは楽しいが、チェーン店はやはり味気ない。酒屋の小松原さんが卸している店に行こうよ、と言ったら近場でも錦糸町からバスで10分と聞いて、意見を引っ込めた。2時間限定で店を出されて不完全燃焼に陥ったので、1人総武線の大久保駅で降り、よく行くカラオケスナックで11時半すぎまで歌って帰った。
◇10月2日(土)神宮球場
東京6大学リーグ、慶大-法大戦を見ていたら、2つ向こうの席から声をかけられた。今年1月、沖縄で行われた「野球部対抗陸上競技会」を雑誌『ホームラン』の仕事で取材した折、那覇の国際通りから少し入った桜坂にある酒場「野球小僧」に行った(雑誌『野球小僧』とは関係ない)。そのオーナー、金城勝治さんが2つ向こうの席に座っていたのだ。興南を見にわざわざ千葉県銚子まで行ったのはいいが、雨に祟られて見ることができたのは1日だけ。消化不良をおこして昨日金曜日が東都2試合、そして今日が6大学2試合を見ているのだという。
沢村(中大)はどうでしたと聞くと、「球が速くてびっくりしました。でも、高橋(善正)監督の『亜大戦が10なら(今日は)6ぐらい』というスポーツ紙のコメントを見てびっくりしました」と言っていた。
金城さんに沖縄の新チームにいい選手はいますかと聞くと、次の名前を出してくれた。
多和田真三郎(中部商)、花城大輔(八重山商工)、安村太樹(久米島1年)、佐村トラビス(浦添商)…。いずれも右投手で安村以外は2年生。
プロが好きそうなのは花城らしく、183、4センチの上背があり、ストレートの球速は既に148キロ程度に達しているという。是非見てみたいし、桜坂の「野球小僧」にもまた行きたい。
さて、この日の6大学では“事件”が起きた。第2試合、何と東大が早大に勝ったのだ。1年生の鈴木翔太(時習館高卒)が最速135キロ程度(はっきり記憶していない)のストレートと、カーブを駆使して、早大を9安打、0三振、7四球の怪投で2失点に抑え、打線はドラフト1位候補、斎藤佑樹、大石達也から5安打、4四球、1死球を生かして4点をもぎ取り、逃げ切ってしまった。
大石などは2-3でリードされている8回裏、3、4番に連続四球を与えたあと、5番田中淳のとき二塁走者に三盗を許し一、三塁にし、その直後ワイルドピッチで1点献上。さらにワイルドピッチでピンチを広げるなど散々のデキ。斎藤、大石に「まったく見るべきものがない」と無印をつけたのは4年間で初めてである。
雨に祟られた金城さんだが、雨がなければこの試合は見られなかった。「金城さん、いいもの見られたじゃないですか。これは事件ですよ」と言った。試合後は友人の服部保さんも誘って、球場近くの焼き鳥屋で野球談議。1日が終わるのが早い。
◇10月3日(日)自宅
今日は終日家にいて、溜まった仕事を片づけた。例年、9、10月は書く仕事が増えて野球観戦が激減する。野球ライターが野球のことを書くために野球観戦できなくなる、というのは大いなる矛盾だが、現実である。
一番面倒なテープ起こしが早く終わり、それを眺めていると、改めて沢村拓一(中大)という投手の意識の高さがわかった。ドラフト前後に発売される雑誌『ホームラン』を読んでもらいたいが、たとえば沢村を最も象徴するウエートトレーニングは高校野球の公式戦がすべて終わり、佐野日大野球部を引退してから始めている。引退したら遊ぶのが普通の高校生だが、沢村は遊ばなかった。
「遊びたいっていう感覚がないんですよね。これ(野球)で飯を食いたいと思っているし」と平然と言った。チームメートも他校のドラフト候補も、さらに監督、コーチも澤村の野球に取り組む姿勢のよさを絶賛する。ああ、これが沢村の真骨頂なんだと2度目の取材でようやくわかった。
※次回は10月12日掲載の予定です
- 小関順二(こせき・じゅんじ)
- 1952年生まれ、神奈川県出身。日大芸術学部卒。会社勤めのかたわら「ドラフト会議倶楽部」を主宰。本番のドラフト会議直前に「模擬ドラフト会議」を開催し注目される。その後スポーツライターに転身。アマチュア野球を中心に年間200試合以上を生観戦。右手にペン、左手にストップウォッチを持って選手の動きに目を光らせる。著書に「プロ野球問題だらけの12球団」ほか多数。家族は夫人と1女。
- 矢島彩(やじま・あや)
- 1984年生まれ、神奈川県出身。5歳くらいから野球に夢中になり、高校時代にアマチュア野球中心に本格観戦を開始。北海道から沖縄まで飛び回り、年間150試合を観る。大学卒業後フリーライターに。雑誌「アマチュア野球」(日刊スポーツ出版社)などに執筆中。好きな食べ物は広島風お好み焼きと焼き鳥(ただしお酒は飲めません)。趣味は水泳。
- 福田豊(ふくだ・ゆたか)
- 1962年生まれ、静岡県出身。85年日刊スポーツ新聞社入社。野球記者を11年。巨人、西武、日本ハム、アマ野球、連盟などを担当。野球デスクを7年勤めた後、2年間の北海道日刊スポーツ出向などを経て、現在は毎朝6時半出社で「ニッカンスポーツ・コム」の編集を担当。取材で世話になった伝説のスカウト、木庭教(きにわ・さとし)さん(故人)を野球の師と仰ぐ。「ふくださん」の名前でツイート中。
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