アメリカンドリームを目指して1人の三十路(みそじ)ボクサーが、ラスベガスのリングに立つ。WBO世界フェザー級2位の大沢宏晋(ひろしげ、31=ロマンサ雅)が11月5日に、同級王者オスカル・バルデス(25=メキシコ)に挑むことになった。

 「自分はボクシングを始めた時から、周りの人に『いつか大きいところで世界戦をするよ』と言っていた。有言実行になってよかった」。

 柔和に笑う大沢だが、その人生は波瀾(はらん)万丈だ。小3から野球に打ち込むが、高1になって団体競技が性に合わないことを悟り、高校を中退。けんかに明け暮れる日々も、幼少時の夢だったボクサーへの憧れを捨てきれず、50メートルを5秒台で走った身体能力を武器に、18歳でボクシングを始めた。20歳の05年にライト級で西日本新人王に輝く。11年5月には東洋太平洋フェザー級王座獲得した。だが、13年に海外試合申請の不手際から1年間のライセンス停止処分を食らい、同王座を剥奪されている。

 ボクシングに打ち込む一方で、別の顔も併せ持つ。21歳から介護の仕事もこなし、ホームヘルパー2級の資格を持つ。4年前には大阪市内にデイサービスセンターも設立。障害者団体などへ寄付したファイトマネーは総額500万円以上になる。「お年寄りの表情を見ていると、人の心理が読めてくるんです。それはボクシングにプラスになっているかもしれません。毎回、試合に来てくれるお年寄りもいる。この仕事をやっててよかったと思いますよ」。大阪市から表彰も受けた社会貢献活動は、確かな力になっている。

 ラスベガスでの試合は、現役復帰する元世界6階級王者マニー・パッキャオ(37=フィリピン)が、WBO世界ウエルター級王者ジェシー・バルガス(27=米国)に挑むメインイベントの前座試合となる。世界的な注目も高く、ベルト奪取なら一気にブレークする可能性がある。「世界中のボクサーが頂きを目指してやってる場所に自分が立てる。とても幸せです。僕、引きは強いんですよ。普段の生活でもね」。事もなげに語る好青年に、人生最大のビッグチャンスが訪れた。【木村有三】