元WBC世界バンタム級王者辰吉丈一郎(44)の次男、寿以輝(じゅいき、18=大阪帝拳)が、2回2分45秒のKO勝利で鮮烈なプロデビューを飾った。岩谷忠男(31=神拳阪神)と対戦。1回に左フック、2回に左ストレートのような強いジャブでダウンを奪った。最後は激しく打ち合って、右ストレート、左フックで沈めた。カリスマボクサーの父と同じ2回KO発進。国内で前例がない親子世界王者へ、ド派手に門出した。

 真っ向からどつき合った。寿以輝は2回終盤にラッシュした。捨て身の反撃に出る岩谷とノーガードで打ち合う。「パーンともらって、ムキになった。パンチに自信がある。負ける気がしなかった」。最後は5連打で相手の動きを止め、右ストレートをねじ込んで左フックで仕留めた。26年前に父がデビューした同じ大阪府立体育会館で、豪快な2回KOデビューまで同じ。世界王者山中のV8戦の前座という異例の注目度だった。

 「今日のところは大喜びしたい。しょっぱなから緊張してガクガクだった」

 「辰吉2世」の重圧に、震えた。花道奥に心配で駆けつけた父から「深呼吸しろ」と声をかけられた。1回は両拳をガチガチに握って力んだ。2回からほぐれて、ダウンを奪うと全盛期の父のように両手を上げて腰を振った。勝利の瞬間、やっと父を見て、小さくうなずいた。控室では「コメントがおもんないねん」と父から“辰吉節”で祝福されて、笑った。プロ初勝利に「すごくよかった。言葉では言い表せない」。

 99年2月2日、岡山県倉敷市内。父の故郷で祖父粂二(くめじ)さん(享年52)の告別式が営まれた。「葬式、火葬場は覚えています」。一家4人は別れを惜しみ、骨のかけらを口にした。2歳半だった寿以輝は「砂。じゃりじゃり。味はなかった」と口の感触を振り返る。「出世してくるけんな」と、裸一貫から世界王者になった父と、見守り続けた祖父。やると決めたらとことんやれ-。辰吉家のDNAと祖父の一部を18歳は身に宿していた。

 試合のメドは立たないが練習を続ける父は、世界王者に返り咲き、ベルトと一緒に納骨することを目標とする。だから遺骨が入った骨つぼは16年以上、大阪・守口市内の自宅に置いてある。岡山にある「辰吉家之墓」は今も空っぽのままだ。父を尊敬するが、寿以輝の目標はあくまで世界ベルトの獲得。夢を実現させれば「じいちゃんに見せにいきます。自宅の仏壇とお墓と両方に」。

 幼稚園の卒園式で「世界王者になる」と誓った。13年1月から半年で20キロの減量ノルマをクリア。この日は父親譲りの好機に畳みかける本能を見せつけた。プロ第2戦は7月に大阪で予定。「倒しにいくスタイルは続けたい。うまさはないんで。誇れるのはパンチ力」。国内初の親子世界王者を目指し、寿以輝のプロ人生が始まった。【益田一弘】

 ◆辰吉寿以輝(たつよし・じゅいき)1996年(平8)8月3日、大阪・守口市生まれ。幼少期から父丈一郎の手ほどきを受けて競技に親しむ。13年1月に大阪帝拳ジムで練習開始。昨年11月にC級ライセンスを取得した。身長167センチの右ボクサーファイター。

 ◆辰吉丈一郎(たつよし・じょういちろう)1970年(昭45)5月15日、岡山・倉敷市生まれ。91年9月、当時国内最速の8戦目で、WBC世界バンタム級王座獲得。97年11月、シリモンコンを破り3度目の王座を獲得、翌年ウィラポンに敗れ陥落。左目の網膜剥離などを乗り越えながら戦績は20勝(14KO)7敗1分け。るみ夫人と2男。164センチ。

 ◆辰吉丈一郎のデビュー戦 89年9月29日、大阪府立体育会館第2競技場の6回戦でデビュー。20戦近いキャリアを持つ29歳の崔相勉(韓国)と対戦。1回に右ストレートでダウンを奪った。2回はロープに相手をくぎ付けにし左ボディーフックをヒット。上体を「く」の字に折った相手に左ボディーフック→左フック→右ストレートと畳み掛けなぎ倒した。2回47秒、KO勝ちで飾った。

 ◆親子世界王者 国内は例がない。親子日本王者で「ライオン野口」こと野口進と次男恭、カシアス内藤と長男律樹の2組だけ。海外では、グティとジュニアのエスパダス親子(メキシコ)レオンとコーリーのスピンクス親子(米国)ウィルフレドとジュニアのバスケス親子(プエルトリコ)フリオ・セサールとジュニアのチャベス親子(メキシコ)らがいる。