<プロボクシング:WBC世界バンタム級タイトルマッチ12回戦>◇14日◇神戸ワールド記念ホール

 どこまで強くなるのか。WBC世界バンタム級王者長谷川穂積(28=真正)が、またも「瞬殺」で9度目の防衛に成功した。同級4位ロチャ(米国)を開始直後から圧倒。1回に2度のダウンを奪い、2分28秒TKO勝ち。国内世界戦で2戦連続1回KO勝ちは史上初の快挙だ。具志堅用高氏に次ぐV9、同じく4連続KO防衛を達成し、ボクシング史上に残る名王者となった。長谷川の戦績は29戦27勝(11KO)2敗。

 あっという間の出来事だった。4カ月前のマリンガ戦に続く、衝撃の1回TKO勝ち。長谷川は「ビックリ。前回より早いでしょ。これ以上早くなったら、どないなるねん」と自分にツッコミを入れて苦笑いだ。

 1発も被弾しなかった。開始から消極的なロチャに、じわじわとプレッシャーをかけていく。そして2分ごろ。左ストレートから「狙っていた」という返しの右フックがあごにさく裂。V2戦でタイの英雄ウィラポンを沈めたのと同じコンビネーションに、挑戦者は頭を揺らしながら沈んだ。

 猛ラッシュで2度目のダウンを奪う。立ち上がった挑戦者のダメージは深く、レフェリーが試合をストップ。前回より9秒早い瞬殺だった。

 試合後の勝利インタビュー。長谷川の目はリングサイドに向いた。視線の先には、約3年前からがんと闘う母裕美子さん(54)。長谷川は優しい口調で語りかけた。「よかったやろ…」。続けて「山下会長から今日の試合は母親に元気を与えるだけの試合だと言われてた」と説明した。V9王者ではなく、息子としての素顔があった。

 1回の入院で約300万円かかる放射線治療の費用をファイトマネーで援助する。先日はブランド品のバッグをプレゼント。だが、白星が何よりの良薬だ。先月29日に退院した裕美子さんは、わずか4日後にジムを訪問し、息子の練習を見守った。「あれからすごく体調がいい。この試合を見て、また元気になりそう」と笑った。

 V13の日本記録を持つ具志堅氏以来、国内世界王者では30年ぶりの4連続KO防衛だ。在位期間は現在4年3カ月で、具志堅氏の4年4カ月を超えることが確実だ。超安定王者。能力の底は見えない。強さの秘訣(ひけつ)を山下会長は「我々2人が向上心を持っているから」という。例えばミット打ちのコンビネーション。コンビ結成した8年前は2、3通りだけだったが、今では50通りを超える。2人で研究し、練り上げた成果だ。

 この日の朝、長谷川は自宅周辺を3キロのロードワーク。世界戦当日として初の試みだが、最近2戦で足が動かなかった反省から採用した。「いろんなことをやってみようと。強さに貪欲(どんよく)になりたいですから」と言う。

 長谷川は5回防衛ごとが節目と考えており、区切りのV10戦も国内でのバンタム級防衛戦が有力だ。その先に海外進出や2階級制覇と大きな夢を見据えている。【大池和幸】