やっと、胸のつかえが下りた。そんな表情だった。左膝のけがを押して強行出場する西前頭9枚目の遠藤(24=追手風)が、2勝目を挙げた。割れんばかりの拍手喝采を浴びて戻ってきた西の支度部屋。これまでの沈黙がうそのように、思いの丈を打ち明けた。

 「一番いい相撲が取れました。体が徐々に徐々に、自然に動くようになって、自分がやろうと思っていることに、反応してくれるようになった。7日目ぐらいから、体も、相撲を取ることに慣れてきました」。

 西前頭13枚目の千代丸(24=九重)を、立ち合いから攻め込んだ。押し返され、土俵際で体ものけぞったが、見えないまわしを懸命にまさぐった。その瞬間、右手で前まわしをつかめた。これが命綱だった。

 反撃開始。頭を押さえつけられ、はたかれても、両足ではねるようについていく。1度握った命綱は、決して離さない。最後はもろ差しとなって、力強く寄り切った。

 今日の相撲。この体の動きを自ら「想定以上」と評した。

 春場所で左膝の前十字靱帯(じんたい)と半月板を損傷し、全治まで約2カ月と診断された。だが、その期間を全うする前に出場を決めた。それは、徐々に相撲が取れるようになり、かすかな自信が芽生えていたから。前半戦で、苦戦すること自体は想定していた。「自分でもそうなると分かっていました。それを覚悟で、休場せずに出ていた」。

 だが、いざ場所が始まって気づかされた。「出ると決めて出た初日は、できないことが多かった」。15日間の長さ。千秋楽が、とてつもなく遠く感じられた。

 周囲の、休場のススメも、嫌でも耳に入る。だが、出ると決断したのは自分自身。簡単に覆せるほど、柔軟な生き方はしてきていない。本場所の一番に、これまで以上に集中して臨んだ。それは「最初から負けるつもりでやっていたわけじゃないけど」最高にして最大の場で、早く相撲勘を取り戻すためだった。

 「どんなスポーツでもそうだと思いますが、試合(本場所)は練習(稽古)の何倍、何回分にも相当すると言うじゃないですか。本場所の一番は、大きいと思います」。

 既に負け越しは決まっていた。だが、そこで遠藤の相撲人生が終わりではない。周囲の想像以上に、膝とうまく付き合い、相撲勘を戻した。それは、出場しなければ成し得なかったことでもある。

 「本当に、日に日に良くなっていると自分でも実感しています。あと5日間。1日1日を無駄にしないよう、1番でも今日のような相撲が取れたらいい」。

 場所前は絶望的と思われていた幕内残留の目安まで、あと2勝に迫った。