異色の新人女優が誕生した。お笑いタレント木村祐一(46)の長編初監督作「ニセ札」(11日公開)で女優デビューする西方凌(28)で、元左官職人。職人時代には日本テレビ系「恋のから騒ぎ」にも出演し「左官屋」の愛称で人気を集めた。左官業を離れて上京後はモデルに転身。女優にあこがれ始め、念願の映画出演を果たした。理想は「女優職人」。筋骨隆々の男に交じり汗を流した3年半の日々を忘れず、“職人気質”にこだわっていく。

 映画出演は昨年4月にオーディションで決まった。「将来を考えて演技にも挑戦したかった」。偽札偽造団首謀者の愛人役。合格の知らせに驚きながら2カ月後に撮影初日を迎えた。

 セリフがうまく出ず、宿泊先で泣いた。撮休だった翌日、実家に帰った。その日届いた新しい子犬が以前からいる3匹の仲間になろうと必死な姿に自分を重ねた。「自分も頑張らなきゃ」。倍賞美津子(62)との場面は緊張で芝居ができず撮影中断。セット裏で必死に練習中、倍賞がセリフ合わせに加わった。「演技初めてでしょ。うまくできっこない。だから思いきり楽しみなさい」と言われた。涙が止まらなかった。「毎日必死でした」。

 18歳で地元の短大建築科に進むが、思うような就職先がなかった。ならば手に職を付けようと「左官業」に目を付けてタウンページを見て片っ端から電話した。面接では「使いものにならなければあきらめます」と食い下がった。現場で驚かれたが「女だからあれは持たなくていい、これはいいから」と言われるのが嫌で必死に働いた。セメントを積んだ1輪車の操作にも慣れ、肌は真っ黒に。マンションなら1人で任されるまでになり、卒業後は職人として現場に入った。

 父親が急死した。沈みがちの空気を変えようと母が「恋のから騒ぎ」への応募を勧めた。「少しでも明るくなるなら」と応募すると合格し、小林麻央(26)もいた第9期メンバーとして出演。明石家さんま(53)に「左官屋」と呼ばれ人気者を集めた。番組卒業後も左官業を続けたが、周囲の勧めもあり上京した。

 目標は「職人のような女優」。「左官業をやって自分は現場でものごとを覚えて腕を磨く仕事が好きだと分かった」。「あいつは腕がいいから使いたい」と言われる女優を目指す。「職人時代に付いた筋肉は今も肩や背中、腕、足に付いたままです」と笑った。