俳優渡辺謙(50)が、主演映画「沈まぬ太陽」(若松節朗監督)の初日舞台あいさつで号泣した。24日、東京・日比谷のTOHOシネマズスカラ座で鑑賞後に登壇、公開までの苦労が一気にこみ上げた。同作の原作は山崎豊子氏の、日本航空(JAL)をモデルにしたベストセラー小説。実在企業や実際に起こった墜落事故を描いていることもあり、映像化は不可能と言われてきた。同作は403スクリーンで公開され、300万人動員を見込んでいる。

 日米で活動する渡辺は次回作の撮影に入っており、この日まで完成作を見られなかった。舞台あいさつ前に急きょ客席で鑑賞、感激が冷めないまま舞台に上がった。三浦友和によると「(舞台)袖に来た時から泣きっぱなしだった」という。最初は目が潤んでいる程度だったが、満場の拍手で一気に気持ちが爆発した。

 「自分の映画に感動して泣いているわけじゃないんです。どれだけ大変な思いをして作ったか、ちょっとだけご理解いただければ。僕たちだけじゃなく、たくさんのプロデューサーが、やりたいと思ってきました。熱い思いを忘れることがないよう、(墜落事故で亡くなった)520人の方々、ご遺族の気持ちも絶対忘れないように…。そういう気持ちで作りました」。途中、言葉にならないほどおえつし、何度もハンカチで涙をぬぐった。

 これまで多くの映画化案が立ち上がり消えた。00年には大映の故徳間康快(やすよし)社長が発表したが、8カ月後に死去、白紙になった。何度も企画が頓挫したのは、映像化が難しい題材であることが挙げられる。作品に登場する国民航空(NAL)はJALがモデル。85年8月12日の日航機墜落事故も、描かなくてはならない重要なモチーフだが、遺族への配慮などデリケートな問題もあった。渡辺は「最後まで撮影できるんだろうかという状況だった」と明かした。

 だが、壁ばかりではなかった。休憩中に流れる「祈り『永遠の記憶』」は、生まれる1カ月前に同事故で父を亡くしたバイオリニスト、ダイアナ湯川が演奏している。湯川は同曲を演奏し観客や渡辺、三浦、松雪泰子、鈴木京香、石坂浩二が温かい拍手を送った。誰もいない場所に当たっていたスポットライトは、亡くなった父を照らすライトだった。演出も渡辺のアイデアだという。

 映画人、1人の人間として、作品に込める思いは強い。この日の涙は、困難を乗り越えた離陸を祝福する涙だった。