「おくりびと」で09年にアカデミー賞外国語映画賞を獲得した滝田洋二郎監督(55)が、吉川英治文学新人賞、本屋大賞を受賞した「天地明察」を映画化することが3日、分かった。オスカー受賞直後「釣りキチ三平」が公開されたが、メガホンを取るのは「おくりびと」以来で約3年ぶり。「プレッシャーはない。映画を撮れる喜びでいっぱい」と話した。今夏クランクインの予定で、来年公開。

 同作は、江戸時代前期の天文暦学者で囲碁棋士だった実在の人物、渋川春海を描いた物語。冲方丁(うぶかた・とう)さんの原作小説は珍しい題材、丁寧な人物描写で、38万部のベストセラーになった。

 滝田監督は昨年、原作に出会った。何度も壁に当たりながら、改暦の大事業を担う主人公に感銘を受け、出版社に直接連絡したという。「あきらめないで未知なるものに挑戦して、夢をつかもうとする生き方がおもしろい。太平の時代なので斬り合いはないけど、感情の斬り合いがある」と語った。監督デビューして30年たち、自分を主人公に重ねる部分もある。ピンク映画でデビュー。評価が上がるにつれ大きな規模の作品を撮るようになったが、壁や障害が大きくなった。

 さらに、現代社会と似た部分もあるという。「太平ということは、個人や国の息吹が感じられないということでもある。喪失感がある今に置き換えてもいい」。

 キャストは未定だが、脚本は進行中。原作では21歳から77歳までが描かれているが、若い時代に焦点を当てるという。「ただ偉人を描くというおりこうさん映画にしたくない。挫折、めぐり会い、日本の美しい風景や心を描きたい。僕も春海のように新しい星を探します」と力強く語った。