黒田官兵衛は豊臣秀吉の参謀として知られる。その官兵衛が摂津国川辺郡(現兵庫・伊丹市)にあった有岡城でとらわれの身となり、1年半に及ぶ幽閉生活を強いられたことは、NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」(14年)の印象的なエピソードとして記憶に残っている。
米澤穂信氏の直木賞受賞作「黒牢城」は、織田信長に反旗を翻し、有岡城にたて籠もった荒木村重が、地下牢(ろう)に幽閉した敵方の軍師・官兵衛の知恵を借りながら、城内で起きた「密室殺人」の謎を解いていく異色のミステリーだ。なぜ村重は官兵衛を殺さなかったのか、そして諸説ある信長への反旗の本当の理由は…。「このミステリーがすごい!」1位にもなった作品は、密室殺人解明の過程で歴史の謎の「真相」をも紡ぎだしていく。
信長軍の脅威にさらされる城内で「密室殺人」が発生する。容疑者は身内の誰か。城内の動揺を鎮めるため、村重自ら検分や聴取の指揮をとるが、事件解明には至らない。思いあまった村重は地下牢に官兵衛を訪ねる。天才軍師とうたわれた官兵衛は調書を一読しただけで事件の核心をつく。
籠城は長引き、再び事件が。村重は官兵衛の底知れない知略に怖れを抱きながらも、相談を続ける。そして相次ぐ怪事件の裏には意外な黒幕がいた。
村重役、元木雅弘と官兵衛役、菅田将暉が文字通り息詰まるような心理戦を繰り広げる。月日を重ねるに従って憔悴(しょうすい)していく官兵衛だが、目のぎらつきは増していく。対照的に村重は城主の威厳を漂わせながら、表情にはしだいに疲労が蓄積していく。暗い牢に刺す薄明かりがそんな2人の精神状態を照らし出す。
黒沢清監督にとってはこれが初めての時代劇。「村重も官兵衛も謎解きは趣味でも仕事でもない。それなのになぜ村重は事件を解決しようとするのか。それが最大のミステリーだと思いました。事件の謎解きとバランスをとりながら、村重が何に悩み、どう乗り越えていくのかをていねいに描いたつもりです」という。
陰謀渦巻く戦国時代を背景に、号令だけでは動かしきれない城内の不穏な集団心理が、現代に重ね合わせられるように映し出される。吉高由里子、青木崇高、宮舘亮太、柄本佑ら個性派がそろい、それぞれに「秘めた思い」がにじんで見える。2時間27分はあっという間だ。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)




