第88回アカデミー賞授賞式が2月28日にハリウッドのドルビー・シアターで行われ、「レヴェナント:蘇えりし者」で主演男優賞にノミネートされていたレオナルド・ディカプリオが5度目のノミネートで念願のオスカーを初受賞しましたが、今年の授賞式で注目を集めたのはやはり人種問題。2年連続で俳優部門にノミネートされた20人全員が白人だったことから、ウィル・スミス夫妻やスパイク・リー監督ら黒人が授賞式のボイコットを表明。「白すぎるオスカー」と言われ、ハリウッド映画業界全体を巻き込む人種論争に発展していました。

 そんな授賞式で司会を務めたのは黒人コメディアンのクリス・ロック。授賞式前はノミネートされた作品の内容よりも人種論争ばかりが話題になっていたことから、一般の映画ファンたちは今年のアカデミー賞には冷めたという人も多かったようですが、ロックはオープニングで登場するや否やこの問題に鋭く突っ込みブラックジョークをさく裂。持ち味の毒舌で数々の過激な発言をすることで人気のロックが果たしてどんな司会をするのか楽しみにしていましたが、避けては通れない、そしておそらく誰もが聞きたいと思っていたこの問題を見事に笑いに変え、「さすが」と思わせる司会ぶりでした。過激なコメントは賛否両論あるでしょうが、痛烈に人種問題を批判する一方で、「黒人にも白人と同じ機会が与えられるようになって欲しい」と語るなど、新しい時代の幕開けにふさわしい司会となりました。

 ここでちょっと、冒頭の司会で語ったロックのブラックジョークの一部を紹介します。「僕は今、ホワイト・ピープルズ・チョイス・アワード(白人選定賞)と呼ばれるアカデミー賞の授賞式にいます」「司会者を候補者のように選ぶのなら、自分は呼ばれることはなかっただろう」「皆に(授賞式を)ボイコットするように言われたけど、失業者(ノミネートされなかった人)に言われても説得力がない。僕がボイコットしても授賞式は予定通り行われ、(同じ黒人のコメディアン)ケビン・ハートに仕事を奪われるだけだからね」「アカデミー賞は今年で88回目だけど、過去71回のアカデミー賞でも黒人はノミネートされていない。でも、今まで黒人が抗議することがなかったのは、レイプされたりリンチされたりで忙しくて、誰が撮影賞を受賞するかなんてどうでもよかったんだよ」「もし毎年黒人がノミネートされないと気が済まないなら、黒人専用のカテゴリーを作るべきだ。男女でカテゴリーを分けているけど、陸上競技じゃないんだから、演技に男女は関係ない」「多様化というなら、最優秀黒人友達賞みたいな枠を作れば良い。18年連続で(黒人コメディアン女優)ワンダ・サイクスが受賞するだろうけどね。ハリウッドには差別はあるよ。社交的な差別だけどね」等々、見事にこの人種論争に関するロックの独壇場となりました。痛烈に批判をする一方で、ボイコットしたジェイダ・ピンケット・スミスを引き合いに出し、「彼女がオスカーをボイコットするのは、僕がリアーナのパンティをボイコットするようなもの。つまり、最初から誘われていないってことさ」と、ボイコット問題さえもネタにしていました。

 授賞式も全体的に黒人にフォーカスする内容が多く、白人主演の映画に黒人を出演させたパロディ映像を公開したり、黒人が多く住む地域の映画館で黒人に「(作品賞を受賞した)スポットライトを観た?」などとロック自らインタビューをし、「そんな映画知らない」と言わせてみたり…。そして、最後に発表された作品賞のプレゼンテ-ターとして登場したのは、モーガン・フリーマンでした。

 「レヴェナント:蘇えりし者」で史上3人目となる2年連続で監督賞を受賞したメキシコ人のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督は、「私たち世代はあらゆる偏見やつまらない考えから自らを解放する素晴らしい機会を与えられています。肌の色は、髪の毛の長さと同じくらい何の意味もないと言うことを、今一度そして永遠に確認して欲しい」とスピーチ。アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーは、黒人やアジア人、ヒスパニック系らマイノリティ(人種的少数派)の会員数を2020年までに現在の倍に増やす計画を発表しており、より開かれたアカデミー賞になることが期待されています。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)