昨年6月に米連邦最高裁が、同性婚を憲法の下の権利として認める判決を下し、それまで認められていなかったオハイオ、ミシガン、ケンタッキー、テネシーの4州も含めて事実上、全州で同性婚が合法化。大きな反響を呼びましたが、まだまだ同性愛者にとっては風当たりが強いのが現実です。そんな中、ある10代の少女がSNSに投稿した「(大ヒットアニメ「アナと雪の女王」(13年)の続編で)ディズニーがエルサをレズビアンのプリンセスにしてくれたら、どんなに象徴的なことか…」というコメントが、ファンの間で大きな話題となっています。その後も、「親愛なるディズニーへ エルサにガールフレンドを」を投稿したことをきっかけに、ディズニーのお姫様は同性愛者であっても良いかどうかネット上で熱い議論が交わされています。

 この投稿をきっかけに、「アナと雪の女王」の続編にはLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)への認識を高める役割を担って欲しいと期待する声が多数寄せられている他、子供向けの作品にはふさわしくないとの反対派の意見もあり、激論を戦わせています。ディズニーは醜い野獣の姿にされた王子とヒロインの恋を描いた「美女と野獣」を製作して大ヒットさせていますが、これまで同性愛のヒロインが登場したことは皆無。相手が野獣ならOKで、なぜレズビアンはいけないのか? この投稿をした少女は、MTVのウェブサイトで「お姫様が別のお姫様と恋に落ちる話は見たことがない。ハリウッドでは野獣と恋に落ちる少女や人間と恋に落ちるオーガ(怪物、鬼)、ミツバチを愛する大人の女性も描かれているのに、私たちはまだ同性愛者のお姫様に純粋さを見いだせずにいる」と率直な意見を寄稿しています。

 賛成派の意見の一部を紹介すると、劇中には「Love is an Open Door(とびら開けて)」という挿入歌も登場していることから、「愛の扉は開いている。扉はストレートな人だけでなく、すべての人に開かれるべき」という声から、「子供たちに幼い頃から同性愛者であることは何の問題もないと学ばせたい」「どんな子でもお姫様になれると知って欲しい」「ディズニーのお姫様がレズビアンであっても、それを見た子供がレズビアンになるわけではない」という肯定的なものが多数を占めています。一方の反対派で一番多いのは、「子供が見る作品の夢を壊さないで欲しい」「お姫様はお姫様らしく、セクシャルな描写や過激な設定などは避けるべき」など、親として子供たちが憧れる夢の世界を守ってあげたい、映画は政治とは無関係で夢の世界に徹するべきとの意見が多いように思います。

 今年のアカデミー賞では人種差別問題がクローズアップされましたが、ハリウッドでは戦後はドイツ人が敵役になることが多く、冷戦時代には旧ソ連や共産主義が悪者という構図で映画作りがされるなど、政治と映画は常に密接に結びついてきました。同性愛者を支持する人が増える中で、ディズニーがこの問題にどう対応するのか注目されています。クリス・パック監督は以前のインタビューで、「現代の男の子と女の子、大人の男女が直面する問題にも触れたい」と語っていましたが、続編ではついにエルサにロマンスの相手が現れるのでしょうか。そしてその時のお相手は誰になるのか…。その答えを知るには、2018年の公開まであと少し待つ必要がありそうです。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)