◆私の男(日)

 流氷が漂う凍てつく北の海辺の街で、身を寄せ合うように生きる父娘は、禁断の関係で結ばれていた…。そこに周囲の人々の思惑、愛憎が絡み合い、生々しい人間の業がフィルムからにじんでくる。

 浅野忠信演じる淳悟は、家族の存在を渇望し、震災孤児の花を引き取る。二階堂ふみ演じる花も、失った家族の愛を求めつつ、淳悟の心の隙間を埋めることに喜びを見いだし、それが男女の関係へと進展する。人目もはばからず通りを密着して歩き、指をなめ、街中でキスをし、結ばれる…。常軌を逸した父娘関係を、突き進むように演じる浅野と二階堂の演技は、何かに取りつかれたようだ。

 難を言えば、2人の情愛の世界を象徴的に描く演出が、やや分かりにくく、ある事件をきっかけに2人が東京に移り住んでからの展開が駆け足で、物語のつながりが甘い。事件後の2人の立ち位置などに、疑問が残った。

 ただ2人の演技に加え、熊切和嘉監督が作り上げた、厳しくも美しい北の海の映像は実に力がある。19日開幕の第36回モスクワ映画祭コンペティション部門の出品も決定。ロシアでどう評価されるのか、注目したい。【村上幸将】

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