◆渇き。(日)

 予想を裏切られる「発見」があると、映画は楽しい。この作品には2つの「発見」があり、心が躍った。

 役所広司が、激情家の元刑事を演じた。ここまで振り切った役は、役所も初めてではないか。元妻との間の娘・加奈子(小松菜奈)が行方不明になったと聞き、探し回るが、暴走、暴言何でもありで暴れまくる。元妻を襲うなど、倒錯した家族愛も、鬼気迫る。役所の役者人生を振り返るとき、論議の的になる作品であることは間違いない。

 男女構わず周囲を自分のとりこにしていく魔性の女を小松がうまく演じた。それが2つ目の「発見」。映画出演3作目ながら、とびっきりの明るさと、心に潜む闇をうまく同居させた。思わせぶりな行動に加え、耳元で「愛してるよ」なんてささやかれたら、そりゃあ人生だって狂わされるだろう。

 中島哲也監督らしく、テイストは「告白」と近い。普通の人なんて、1人たりとも出てこない。心に忍ばせたジョーカーを、だれもが振りかざしている。ろくでなしから未来ある子供まで、命の重さなんて関係なしに血が流れる。そこは好みが分かれるところだ。【森本隆】

(このコラムの更新は毎週日曜日です)