花組トップ明日海(あすみ)りおが、劇団代表作の1つ「ミー&マイガール」でタップダンス、帽子のトリックと、見せ場がふんだんにある主人公を熱演している。新人時代の08年、同作で新人公演に初主演した思い出の作品。帽子を手になじませようと、自宅へ持ち帰るなど苦闘しながら作り上げてきた。兵庫・宝塚大劇場は6月6日まで、東京宝塚劇場は6月24日~7月31日。

 貴公子トップも就任3年目。グイグイと引っ張るタイプではない。仲間に寄り添いながら、歩んできた。

 「明るく元気に、楽屋でワイワイとやっていても、開演すれば空気を一瞬でつかむ。舞台で1番に集中力を発信させる人でいたい。その思いは変わらない」

 心(しん)は強いが、性格は温厚。最近は怒るようになったかと問うと「怒りますよ」と返ってきた。だが、よく聞けば「妥協はしたくない。意見は言います。あれ? 怒る? 言葉を荒らげる? 感情的には…ならないですね。舞台の上でしか」と笑った。

 柔らかい空気を身にまとう明日海が、誰よりもいちずに作品に向かうことで、一体感が生まれる。春という季節も活動的にさせる。

 「冬眠しているわけではないですが、冬は苦手。ようやく活動できる(笑い)。最近は、おみそ汁にはまり、おだしからとって、具材のお野菜で変わる味を楽しんでいます。お気に入りは玉ネギ。甘くなるので」

 今作は明日海が8年前、新人公演で初主演した「ミー&マイガール」。下町育ちのビルが貴族の跡継ぎと分かり、生活が急転。戸惑いつつも恋人のサリーへの愛を貫き、周囲の人とも心を通わせる青年だ。

 「『これから男役でやっていく』と決意を新たにした作品でした」。8年前の本公演では女役のジャッキーなどを役がわりし、すべて女役だった。

 「新人公演で(男役の)ビルを演じたとき、第1歩の足を大きく踏み出せる快感、忘れられないです。あ~、大きく足、踏み出していいんだ! って」

 新人時代も苦労した主人公の得意技、帽子をクルクルと回す「ハット・トリック」には今回も苦しんだ。

 「歴代ビルを演じた先輩は、帽子が手に吸い付いている印象で、私も肌身離さず持ち歩きました。家まで持ち帰って練習しましたが、いろんな物にぶつけて、破いてしまったことも」

 そんな明日海にとって、ビルは理想の男性という。

 「ふざけていても、隠しきれない誠実さがあり、やるときはやる。おおらかで包容力があって、恋人をまっすぐに愛し、知らず知らずに人をとりこにする」

 懐の広さ、いざという場面での度胸と強さ。明日海がビルに感じる魅力は、そのまま、自らが花組で無意識に放つ存在感に近くなっている。【村上久美子】

 ◆ミー&マイガール 1930年代のロンドンが舞台。下町育ちの青年ウイリアム(ビル)が、名門貴族の跡継ぎと分かり、一人前の紳士に成長するまでを描くミュージカル。恋人サリー(花乃まりあ)との恋、昔の仲間や貴族社会の人間関係も描く。1937年にロンドンで初演され、ロングランとなったヒット作。宝塚では87年に剣幸らの月組で初演。95年に天海祐希、08年には瀬奈じゅんが主演し、たびたび再演される劇団代表作の1つ。

 ☆明日海(あすみ)りお 6月26日、静岡市生まれ。03年入団。月組配属。08年、バウ・ワークショップ「ホフマン物語」で初主演。同年「ミー&マイガール」新人公演で初主演。11年「アリスの恋人」でバウ単独初主演。12年、龍真咲が月組トップに就くと過去に例がない準トップ就任。「ロミオとジュリエット」「ベルサイユのばら」で龍と主演役がわり。花組異動後の14年5月、同トップ就任。身長169センチ。愛称「みりお」「さゆみし」。