定例会見を行ったフジテレビ亀山千広社長が、30周年を迎えた看板ドラマ枠「月9」の成り立ちを振り返った言葉です。節目とあって、ドラマ制作の二枚看板だった大多亮常務とともに当時のことをいろいろリップサービスしてくれました。意外な話が次々と出てきて、ただならぬ聞き応えに取材陣から次々と質問の手が挙がりました。

 月曜9時の「欽ドン」が87年に終了し、急きょドラマ「アナウンサーぷっつん物語」(岸本加世子、神田正輝)を手掛けたのが、若手編成マンだった亀山氏でした。「キワモノの2時間ドラマ」で用意していたら上司から「全6話」を言い渡され、撮影が間に合わずに第5話は生放送だったというびっくりエピソードでした。現在、月9として分類されているのは翌88年の「君の瞳をタイホする!」から。亀山氏は月9第2作目の「教師びんびん物語」も大ヒットさせています。

 明確にラブストーリー枠として打ち出し始めたのは、やはり「東京ラブストーリー」(91年)が最高視聴率32・3%を記録して以降。プロデュースは、第一制作部の大多亮氏でした。ラブストーリー路線は、エリート部署でがんがんヒットを飛ばす亀山氏ら編成部への、第一制作部としてのライバル心だったそうです。「なんとか編成のドラマに勝ちたいなと。『教師びんびん』と違うものをやらないと目立てない、勝てない、浮かばれない」。

 大多氏が「101回目のプロポーズ」(91年)「ひとつ屋根の下」(93年)など視聴率30%ドラマを連発したあたりから「月9」の名前が定着。一方の亀山氏は「教師びんびん」や「踊る大捜査線」路線の人。「本質的にはラブストーリーは得意ではない」といいますが、「あすなろ白書」(93年)「ロングバケーション」(96年)などの恋愛ドラマを大ヒットさせています。

 当時は口もきかなかった疑惑にも言及しました。当時テレビ局を取材していてもそんな話はよく耳にしましたが「実際はそんなこと全然なくて、超えたいプロデューサーの1人だった」(大多氏)「常に比較されてつらい思いをして。わはは」(亀山氏)。実際、このくらいのヒットメーカーになると日常は目が回るほど忙しく、そもそも会社にいません。口をきかないというより、雑談するヒマがなかったと思います。不仲説が流れるほど注目のエースが何人もいたわけで、今のフジにはちょっとない話です。

 そもそも2時間ドラマのはずだったとか、ラブストーリーは得意ではなかったとか。いろいろしんどい環境の中でのスタートだったことは興味深いです。思えば、シナリオ大賞を創設して坂元裕二、野島伸司ら新人を次々と起用したのも、大御所脚本家たちが書いてくれる枠ではなかったから。逆境をチャンスに変える、いい意味のなにくそ感とちゃっかり感。亀山氏は「月9そのものにドラマがある」と語ります。

 今や月9は新作が放送されるたびに最低視聴率を更新する大迷走。1月期に放送された「突然ですが、明日結婚します」も全話平均6・7%でワースト記録を更新しました。まさに手詰まり状態ですが、こんな時こそ月9が本来持っていたはずのたくましさを発揮して、突破口を見つけてほしいとも思います。

 大多氏は「30年やってるんだから波はありますよ。誰かがコツをつかんでくれたら」。4月期は相葉雅紀さん主演の「貴族探偵」(17日スタート)。30周年の幕開け作品で、復活の糸口はつかめるでしょうか。

【梅田恵子】(B面★梅ちゃんねる/ニッカンスポーツ・コム芸能記者コラム)