ミステリーの犯人は観客の投票で決まる。究極の客席参加型ミュージカル「エドウィン・ドルードの謎」(東京・シアタークリエ)が盛況だった。288通りの結末を受けて立つ山口祐一郎、平野綾らミュージカル界の人気者が、芸達者ぶりで圧倒したり、立ち往生してやり直したり。ライブならではの一体感があり、実際この分野は活況のようだ。

**********

 「エドウィン・ドルードの謎」は、英作家チャールズ・ディケンズの未完のミステリーを元に、犯人や結末を観客の投票で決めてしまおうという斬新な舞台。85年にブロードウェーで初演され、作品賞などトニー賞5部門を獲得している。日本初上演となる今回は、コメディーの奇才、福田雄一氏が脚本を手掛けた。

 誰が犯人で、どんな結末になるのか、2部で行われる投開票まで分からない。臨機応変な俳優力が求められる演目とあって、キャストは豪華な実力派が勢ぞろいした。福田氏が「ミュージカル界の帝王」と愛してやまない主演山口祐一郎をはじめ、宝塚歌劇団を退団したばかりの壮一帆、今や東宝ミュージカルになくてはならない平野綾、劇団四季出身の今拓哉、保坂知寿ら、芸達者な人たちが「毎日が初演」というステージに挑戦している。

 清き一票を持っている客たちも楽しむ気満々で、出演者たちが「楽しいから絶対帰らないで」と盛大に歌うオープニングからアットホームな手拍子を送る。

 客席数600という中規模の劇場も謎と笑いを共有するにはちょうどよく、満場の笑顔と拍手をもらって、俳優たちもうれしいだろうなあと思う。人気ミュージカルのパロディーで笑わせ、ミステリーの本筋に戻れば圧倒的な歌声でパフォーマンスを披露してくれる。バンパイアや死の帝王など、大いなる役どころでおなじみの山口祐一郎は、この作品では客席とステージをつなぐ劇場支配人としてウザかわいい魅力。萌えアニメ出身平野綾の七色の声に客席は腹を抱えていたし、追いかけ回す今拓哉の変態紳士ぶりも素晴らしい。演劇の底力と、作品ならではのお得感に見入ってしまった。

 結果発表にそわそわ、ざわざわするミュージカルスターたちの生身っぷりもチャーミング。結末が毎回違うのでネタバレには当たらない前提で書くと、私が見た日は、保坂知寿の女主人が犯人に選ばれ、堂々たる犯人の歌を歌っていた。どのキャラクターにもそれっぽい動機があり、実際、毎日いろいろな犯人が選ばれているようだ。

 いわゆる“客席参加型”は活況というのが個人的な印象だ。ABBAの名曲で構成する大ヒットミュージカル「マンマ・ミーア!」はラストの「ダンシング・クイーン」を客席総立ちで踊るのがお約束だし、昨年、渋谷で来日公演を行ったブロードウェーミュージカル「天使にラブ・ソングを」も、大団円のカーテンコールでキャストと客席が一緒に踊っていた。突然「さあ一緒に」と水を向けられてもシーンとしがちだけれど、最初からお楽しみとして組み込まれていると、待ってましたの体勢になるから不思議だ。

 「エドウィン・ドルードの謎」と似たパターンでは、一昨年の舞台版「名探偵コナン 殺意の開演ベル」(紀伊国屋サザンシアター)も見ごたえがあった。こちらは、1人の犯人を観客が推理して当てるという趣向。犯人や証拠品、犯行時間、動機など16項目を推理シートに書き込んで提出するのだが、客席数約460の中で全問正解者が3人くらいいて、劇場が拍手で一体となった。

 5月22日からは、帝国劇場で日本版「天使にラブ・ソングを」(主演森公美子)も再演される。再び“一緒に踊ろうカーテンコール”が盛り上がりそうだ。

 「エドウィン・ドルードの謎」は、東京・シアタークリエで25日まで。5月には、中日劇場、福岡市民会館で公演。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)