【カウナス(リトアニア)=森本隆】第2次大戦中、ユダヤ系難民に日本へのビザを発給し、6000人の命を救ったといわれる実在の外交官の半生を描いた映画「杉原千畝(ちうね)」(12月5日公開、チェリン・グラック監督)のワールドプレミアが作品の舞台となった同市でこのほど行われ、主演の唐沢寿明(52)妻役の小雪(38)らが出席した。杉原氏の遺族の訪問、現地の名誉観光大使就任オファーなど、サプライズずくめのイベントに、唐沢は感極まった。

 唐沢は目を疑った。上映会の客席に、自分が演じた杉原氏そっくりの人物を見つけた。客席後方で拍手を送る、白髪の日本人男性。杉原氏の四男、伸生(のぶき)氏(66)だった。在住のベルギーからお忍びで訪れた子息の姿に、唐沢は「ビックリしたよ!『杉原さん』が目の前にいるんだもん」と興奮が収まらなかった。

 サプライズはもう1つあった。カウナス市のカイリース副市長から、小雪と2人で「名誉観光大使」就任の打診を受けた。唐沢が「突然だったね。また仕事で来られれば」と言うと、小雪も「またご縁があればね」と喜んだ。劇中と同じように、常に寄り添う夫婦のようだった。

 映画は、ナチス・ドイツの迫害を逃れるため、リトアニアの日本総領事館に駆け込んだユダヤ人難民に対し、日本行きビザを発給した外交官の物語。唐沢が「正義の人。僕がやるべき」と宿命を感じた作品だ。上映が終わると、多くが涙を流し、スタンディングオベーションが5分以上も続いた。幼少時をゲットー(ユダヤ人の収容施設)で過ごしたフルマ・クチンスキエネさんは「『命のビザ』で、ユダヤ人は命をつないでいただいたと、映画を見て実感した」と感謝した。唐沢も瞳を潤ませたが、「寝てないからじゃないかな」と照れ隠しした。

 杉原氏が救った命は6000人、子孫は4万人に増えたといわれる。「日本のシンドラー」の偉業は、リトアニア国民の2人に1人が知るとされる。客席を見渡した小雪は「若い世代もいた。興味を持っている学生さんなんですね」と感慨深げだった。一方で、日本ではまだ知る人は少ない。唐沢は現状を嘆きつつ、訴えた。「こちらでは中学校の教科書に載っている。日本ではない。これを機にやって(載せて)ほしい。世界に誇れる人だから」。わが身を顧みず、正義を貫いた杉原氏のように、その目はまっすぐだった。

 ◆杉原千畝という人 杉原氏は1900年(明33)1月1日、岐阜県で生まれた。ソ連情勢把握のため、リトアニアの日本領事館に赴任。ナチス・ドイツの迫害を受けるユダヤ系難民を救うため、政府の命に背いて日本への通過ビザを発給した。85年、「諸国民の中の正義の人」として、イスラエル政府から表彰され、86年死去。幸子夫人(故人)との間に4男をもうけた。映画は全編ポーランドでロケが行われた。共演は小雪、浜田岳、塚本高史、滝藤賢一、小日向文世ら。