東北出身の俳優らが東京で製作し、東京から東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島の3県をツアーで公演する「東北ルーツプロジェクト」の音楽劇「想稿・銀河鉄道の夜」東京公演の千秋楽が13日、東京・池袋のあうるすぽっとで行われた。

 「想稿・銀河鉄道の夜」は、岩手県花巻市出身の作家・宮沢賢治の代表作「銀河鉄道の夜」をベースに、劇作家・北村想氏が作り上げ、86年に初演された戯曲。主人公のジョバンニは親友のカンパネルラとともに、銀河ステーションでたくさんの人々と出会うが、銀河鉄道に乗ることができない物語。カンパネルラとジョバンニの別れや、「どうして、人間は死んでしまうんだろう」「人間は死ぬのではありません。天国に召されるのです」など、人間の生死について考えさせられるせりふが幾つもある。また海難事故に遭った際、生きるために他者を犠牲にしていいのかなど、東日本大震災と重なるような場面もある。

 20日に福島県いわき市、24日に同南相馬市、27日に宮城県東松島市、4月1日に仙台市、4月3日に岩手県盛岡市で、東北公演ツアーを行う。カンパネルラを演じる福島県田村市出身の佐藤みゆき(31)は、「東京と同じように演じても、東北でやれば(観客の)受け取り方が、その土地、土地でかなり変わってくると思う。心して行くし、化学反応が楽しみでもある」と意気込んだ。

 物語の中で、佐藤演じるカンパネルラが「本当のことって何だろう?」と思いながら、銀河鉄道に乗り、岩手県一関市出身の小松彩夏(29)演じるジョバンニが親友の“遺志”を受け継ぎ、周囲に伝える場面がある。佐藤は、観客に伝えたいものについて聞かれ「遺志を継ぐことよりは、今、生きてしまったと思っている人、あの人が亡くなって、どうして私は生きているんだろう…ととらえる人も多いと思う。今、生きていること、生活が尊い、いいものだという気持ちになってもらえたらいいな、と思います」と語った。

 小松は「震災から5年たって、今まで自分自身、東北のために何もできていない。やっと、このお話をいただいて、何か自分にもできることがあったんだとあらためて感じた」と震災復興への思いをあらたにした。そして「東京の公演で、お客さんからたくさん思いも伝わってきたし、私たちも、けいこ中から公演中まで思いがあった。ちょっとでも何かを感じてもらえたらいい、という気持ちで東北では頑張りたい」と意気込んだ。

 仙台市在住で少女役の広瀬咲楽(18)は「震災があった年末に、今も所属する『劇団ハーベスト』に入団することになりましたが、近い親戚も沿岸部の被災地にいて(震災後)全然、違う町になっていた。(女優を)目指している場合かな、と思いました。入団したことにも意味があると思いながら、毎年、3・11が来ると何をしているんだろうと後悔もした」と、震災からの5年を振り返った。そして「東京でしかお芝居したことのない私が、地元にお芝居を持っていくプロジェクト…自分なりに生と死に思うところはありますが、舞台に立つ人は東北出身の人ばかり。東北に持っていけば、ストレートに観客に伝わるのでは、と思います。私たちも地元が好きなので」と熱っぽく語った。

 企画の立ち上げに参加した、宮城県石巻市出身の芝原弘(34)は、芝居ユニット「コマイぬ」として“よみ芝居”と称する朗読劇も石巻市で行っている。公演後、東北ツアーに向け「こういう内容のお芝居が、どう受け止められるかは不安もありますが、希望が持てる作品に仕上がっていると思う。喜んでもらえるという期待半分、不安半分です」と本音を吐露した。

 27日に公演を行う東松島コミュニティーセンターは、高校時代に初舞台を踏んだ思い出の場所だ。「震災の時は、遺体安置所だった場所です。ブルーシートにくるまれた遺体を並べたと聞いています。でも、高校の時、初めて立った舞台に戻ることができます」と、悲しみと感慨が入り交じった複雑な思いを口にした。