12日に死去した演出家蜷川幸雄さん(享年80)が、小栗旬(33)と「ハムレット」の上演を約束していたことが13日、分かった。昨年12月に入院したが、来年までの演出舞台は決まっており、「ハムレット」も今年10月に予定していた。蜷川さんの「最後の『ハムレット』演出にする」という決意の言葉を聞いた小栗も奇跡を信じていた。遺体はこの日午後、都内の自宅に戻った。

 蜷川さんの遺体はこの日午後4時55分、昨年12月の入院以来、5カ月ぶりに自宅に戻った。報道陣が待つ中、白のワンボックスカーが到着。関係者が白い布にくるまれた蜷川さんを静かに運び入れた。自宅には黒柳徹子(82)らから供花が届けられた。長女の写真家蜷川実花さん(43)もこの日夜、自宅に駆け付けた。

 蜷川さんの死は、演劇界に大きな影響を及ぼしている。来年まで舞台が決まっていたが、その1本が今年10月に予定した小栗主演「ハムレット」。小栗は20歳の時、蜷川さんの演出、藤原竜也が主演した「ハムレット」に出演。以降、蜷川組の常連となり、09年に藤原と「ムサシ」に出演したが「ムサシ」海外公演に小栗が出演しなかったことで2人は疎遠となった。しかし2年前、小栗が「また出たい」と直談判。心意気に打たれた蜷川さんは7年ぶりに組む作品に「ハムレット」を選んだ。

 過去に平幹二朗、渡辺謙、真田広之、市村正親、藤原の主演で上演した。シェークスピア作品を数多く手掛けてきたが、その中でも思い入れの強い作品の1つだ。小栗版を「最後の『ハムレット』演出にする」として演出プランも立てた。

 昨年12月に肺炎で入院し、自分の半生を題材にした「蜷の綿」上演を延期。4月に稽古が始まった「尺には尺を」の稽古場に来られないほど体の状態は良くなかったが、小栗は奇跡を信じていた。訃報を知ると「ついにまたご一緒できる、叱っていただけると心の底から楽しみにしておりました」と無念さをにじませた。

 8月に森田剛と宮沢りえ主演の「ビニールの城」は予定通り上演するが、蜷川さんが残した演出プランで上演するか、別の演出家に依頼するかは検討中だ。総合演出を予定していた12月の「ゴールド・シアター2016」は予定通り実施する。一方、来年1月の「近松心中物語」が中止になるなど、数本の未発表の舞台も立ち消えとなった。