<テレビパレード:渡部陽一氏>

 スローすぎる語り口の戦場カメラマン、渡部陽一氏(38)がバラエティー界でブレークしている。数々の死線をくぐったとは思えない底抜けの笑顔と、その奥にある骨太なジャーナリスト精神が持ち味。ニッカン芸能面では、不定期でトピックコーナー「テレビパレード」をスタート。旬なテレビの話題をお届けします。

 お笑いタレントとひな壇に座り、無自覚に爆笑を巻き起こす。語り口が着ボイスになり、ものまねのネタにされる。戦場という極限とはかけ離れた場でのブレークに、渡部氏は「どういう状況なのか、自分でも、よく分からない日々を過ごしています」。折り目正しい独特の“渡部節”で穏やかに話す。

 昨年末、職業の舞台裏を検証するテレビ特番に出演し、緊迫した現場をのんびりと語るギャップでたちまち注目を集めた。今では「笑っていいとも!増刊号」の常連。お笑いタレントのように扱われる番組でも、撮影した戦場写真を紹介させてもらうことを条件に出演している。「テレビだと、子供や学生にも写真を見てもらえます。例えば『バグダッド』というキーワードだけでも知って、世界で起きている理不尽を知るきっかけになれば」。

 大学時代、アフリカのザイールを旅行した際、ルワンダ内戦に遭遇し、少年兵に襲撃された。帰国後、現地の惨状を訴えて回ったが、反響は薄かった。「言葉では伝わらない」と、好きだったカメラをとった。

 スローな語り口は、戦場仕込みでもある。「子供のころからゆっくりであったのに加え、言葉が通じない諸外国でのサバイバル英語で丁寧に単語を組み立てて話すうち、スピードのゆるさに拍車がかかってしまったと感じています」。スローなせいで、戦場にたどり着けなかったこともある。「検問をパスできなかったり、段取り不足で追い返されたり。フィールドワークを積み重ねてきた18年なんです」。

 年の半分は紛争地で過ごし、9月もアフガニスタン入りした。6月に男児が生まれたばかりだが「必ず僕は現場に立ち、日本でさまざまな報告ができるようにしたい」と熱く語る。戦場カメラマンとしての信条を聞くと「生きて帰ること」と即答した。「海外に出ると、日本の素晴らしさがよく分かります。アイ、ラブ、ジャパン。すっかりとりこです」。【梅田恵子】

 [2010年10月16日8時36分

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