歌手島谷ひとみ(30)が8日、福島第1原発事故を受けて同県双葉町の住民約700人が集団避難する埼玉県加須市の旧県立騎西高校を訪れて、ミニライブを開催した。避難所には菅直人首相や東京電力の清水正孝社長も訪れたが、島谷は子どもたちと「母の日」のためのプレゼント手作りなども企画して双葉町民を喜ばせた。長期化する避難生活で心労の絶えない住民たちの心のケアに努めた。

 島谷が考えた心温まる手作りイベントは、長期間の避難所生活で疲弊する双葉町民たちの心を潤した。「今日は母の日だから、みんなでお母さんにありがとうを言いましょう」。約250人いる避難所の子どもたちに、優しく語り掛け、折り紙と風船を取り出した。「既製のカーネーションを買ってくるよりも、手作りプレゼントがいいと思ったんです」。島谷が手伝い、風船でお花を作ると、子どもたちは、自分の母親に渡しに走った。

 朝田幸花ちゃん(6)にもらった母由美子さん(43)は「こんな生活だからこそ、娘と島谷さんからのささやかな贈りものがうれしい」と目を潤ませた。

 ライブでも、被災者を癒やした。持ち歌は、ヒット曲「亜麻色の髪の乙女」と、子ども向けにとドラえもん主題歌の「YUME日和」。さらに「上を向いて歩こう」などの、誰もが口ずさむことができる曲ばかりを選んで歌った。

 最前列に座った会社員の万崎幸一さん(62)は「泣けてきちゃうよ」と叫び、「今まで来てくれた有名人の誰よりもうれしい。優しさが一番心に響いた。我々も頑張らなきゃと思えてきた」と感謝した。涙ながらに聴いた主婦の石上美恵子さん(41)は「歌にはパワーがあります」と、仕事のために福島・いわき市に戻った夫と長男に、携帯電話越しに、必死に歌声を聴かせていた。

 島谷は原風景を思い出していた。「おじいちゃん、おばあちゃんから子どもたちまでが一緒で、私が子どものころに住んでいた団地を思い出しました。大変な生活ですけど、家族や友達といられることの大切さも、感じました」。すっかり懐いた子どもたちは、いつまでも島谷のそばを離れなかった。島谷は「友達になったんだもん。必ずまた来るね」と、みんなを抱き締めた。【瀬津真也】