<フィッシング・ルポ>

 宮城・南三陸のヒラメ釣りは、シンプルで豪快だぜ!

 冬の風物詩のイメージの強いヒラメだが、東北では極寒となる冬季ではなく、夏ビラメを狙う。南三陸「三浦屋」(三浦明船長)では、まだ暑さの残る9月もヒラメを追いかける。しかも、孫バリなし、胴付き2本バリ、イワシ使い放題、平均60センチ以上…そうそう、合わせ禁物でございます。

 「合わせちゃ、ダメだぁ」

 三浦船長の声がマイク越しに飛ぶ。南三陸沖の水深46メートル。50号のオモリで底を取る。ほぼライトタックル(LT)と考えて良い。着底すると、サオ先がブルンッ、と震えておじぎをする。ヒラメのアタリだ。よし、様子をみて…とサオを持つ手を強く握りしめたところで、冒頭に戻る。

 三浦屋の仕掛けは、超シンプル。ハリスは5号で全長2・25メートル。オモリ直結で、30センチ上に70センチの枝ス(8号、ハリ・チヌ6号)、さらに1・3メートル上にも55センチのもう1本の枝スだ。孫バリはどこにもない。堂々たる胴付き2本バリ仕掛けだ…ヒラメなのに。

 「孫バリかぁ?

 そんなもん、タモ網にすぐ引っ掛かってじゃまくさいから、40年ぐらい前に切ってしまった」と三浦船長。東北沿岸のヒラメ釣りでは、この仕掛けが多いが、発祥は三浦屋になるという。ヒラメの魚影の濃さから、手返しが遅くなるというだけの理由で孫バリは“リストラ”されてしまったのだ。

 さらに驚くことに、底さえ取れれば、誰でも釣ることができる。ヒラメはじっくり生きたイワシを食わせて、それから大きく合わせる-それが基本と思っていた。まさに「所変われば」である。

 ひたすらに向こう合わせの釣りだ。サオ先が食い込んでも、釣り人は動かない。しばらくするとギューン、と絞り込まれてサオは弓なりになる。そこで、サオのしなりをきかせて、ゆっくりと上げる。それだけだ。大きく鋭く合わせてしまうと、はじいてしまってバレることがある。

 最初にタコボウスが上げたヒラメは1キロ前後の悪くないサイズ。三浦船長から「なんだぁ、寺沢さん、それはソゲだぁ」。えっ、これが小さいの?

 その後、船中で掛かったヒラメを撮影したが、60センチオーバーばかり。途中で釣れても、もうカメラを向けることはなかった。

 しかも、エサのカタクチイワシは使う制限がない。「定置網に生きたイワシが掛かってな、そいつを沖にあるイケスに生かしておくのよ。生きたイワシがなくてはヒラメは釣れない。お客さんにはいっぱい釣ってほしいから」(三浦船長)。なんとも太っ腹である。

 タコボウズは取材をしながら10匹。総勢12人乗って船中138匹。外道のアイナメ、クロゾイも大きかった。これなら関東から東北道を使って遠征してきても面白い。ヒラメ釣りの常識が変わっちゃいますよ。【寺沢卓】

 ▼宿

 宮城・南三陸「三浦屋」【電話】0226・46・9339。ヒラメ釣りの乗り合いは午前4時30分集合で、集まり次第出船。エサのイワシに制限なく8000円。氷100円、特製仕掛け(2つ)650円。水深30~50メートルなので、電動リールではなくても十分対応できる。

 ▼交通

 東日本大震災から3年半。三浦屋の船が停泊する戸倉港の最寄りは、JR気仙沼線の陸前戸倉駅。ただし、電車は乗り入れておらず、線路は舗装されて、専用のバスが1時間に1本ペースで走っている。車が便利。東北道仙台南インターから仙台南部道路、三陸道を経由して桃生津山インターで下車し、気仙沼方向に国道45号を約10キロ走ったら、陸前戸倉駅を過ぎ、セブン-イレブンのある最初の信号を右折して戸倉港に。