私が医師になったばかりの約10年前、大腸カメラに対するイメージは患者さんたちと変わりがありませんでした。「痛くて苦しいだろうな」という感覚です。

 下剤を飲んで準備することが必要ですし、患者さんに積極的に勧められないなと感じたこともあります。しかし、自分が内視鏡を行う医者になって数年たつにつれ、その感覚は変化しました。

 私が主に使う大腸カメラは直径13ミリから11ミリと2ミリほど細くなりました。2ミリといえど、患者さんはかなり細くなったと体感します。胃カメラが9~10ミリなので、ほぼ同じです。レンズも高性能になり、ハイビジョンで大腸内部がクッキリ見えます。

 患者さんの痛みを軽減させるための機能も増えています。大腸の内側は痛みを感じる神経がありませんが、大腸の外側の壁がのばされることが痛みに関係します。最新のカメラでは、曲がり角を曲がる際に壁に大腸カメラの先端が当たり、力がかかると自然に曲がる仕組みが搭載されているものもあります。

 大腸カメラが苦しかった理由の1つに、空気があります。大腸自体は、カメラを入れる前はぺちゃんこに縮んでいます。この状態ではポリープが見つかりません。ポリープやがんを見つけるためには、空気をしっかりいれて大腸が膨らんだ状態を作り、全体を観察する必要があります。

 しかし、空気が入ると、カメラが終わった後もおなかが張った不快な感じが続きやすくなります。二酸化炭素は空気と違い体に吸収されやすい気体です。カメラの先端から出る空気を二酸化炭素に変えることで、おなかの張りがだいぶ抑えられるようになりました。

 カメラ自体が細くなり、新しいカメラの機能、二酸化炭素の使用、必要な方ではさらに鎮静剤や鎮痛剤を使用することで大腸カメラのイメージは大きく変化しました。「10年以上前に受けたが、怖くてもう2度と受けたくないと思っていた」と言う患者さんが多くいます。最新のカメラ、設備でカメラを受けてもらうことで「以前とは全然違う」と喜ぶ姿を見ることで大腸カメラを勧めやすくなりました。

 ◆池谷敬(いけや・たかし) 1981年(昭56)9月21日、静岡県出身。浜松医科大卒。2012年から東京・中央区の聖路加国際病院勤務。内視鏡で粘膜下層を剥離するESDという手法で、大腸がんに挑んでいる。