大都市東京でも「高齢化と車」の関係に悩む地域がある。多摩市や八王子市などにまたがる多摩ニュータウン。入居開始が1971年(昭46)と高度経済成長の終盤だった。それから46年。新宿から京王線で約30分の立地だが、高齢化が進み、エレベーターのない老朽化した団地が当時の面影を残していた。

 初期入居地区の諏訪団地にある商店街は閉じたシャッターが目立った。その中、73年に創業し現在も営業している「モリヤ洋品店」の大沢徹也さん(77)は「団地はどこでもこうなる。建物とともに人も年を取り、シルバータウンなんて呼ばれる」と語った。

 大沢さんはほぼ毎日、運転する。配達の仕事や車で約15分のホームセンターへの買い物、約5分の弁当店など、用途はさまざま。「高齢者事故の場合、中年になってから免許を取り、たまに乗ると事故を起こしやすいのだと思う。私は18、19歳の頃に免許を取ってずっと乗っているからアクセルとブレーキの踏み間違いはまずない」と語った。ただ「これだけ高齢者事故が多いと一般的に『免許を返納しろ』と言われるのも仕方ない」とも話した。

 徒歩圏内では十分な生活用品がそろわない環境の中、免許を返納した人もいた。神戸功さん(75)は70歳で返納。約30年間、多摩ニュータウンに暮らし、4階にある自室への階段の上り下りが足腰につらいという。「見ての通り子どもは少ない。だが、車どころか自転車に乗るにも、お子さんに当てたら大変だから気を使う」と話す。3年前に奥さんを亡くし、今は1人暮らし。品ぞろえが充実したスーパーは徒歩約15分の坂道の下にあり、買い物も面倒になってきた。

 30年以上住んできた酒井省二さん(82)は75歳で返納。「高齢者講習で『大丈夫か?』という運転をしていた男性がいた。それでも免許を取れていた。こりゃ未練がましく免許を持っているのは良くないと思って返した」と振り返る。だが「バスだけでは自由が利かない。本当は車があった方がいいんだけどね」と本音をもらした。【三須一紀】