東日本大震災に伴う被害に関し「まだ東北で、あっちの方だったから良かった」と発言した今村雅弘復興相は26日、安倍晋三首相に辞表を提出、即更迭された。首相は後任に、福島県選出の吉野正芳衆院議員(68)を選んで被災地との連携を示し、「今村ショック」の火消しを急いだ。しかし、今村氏の失言を1度は許して続投させたのは首相自身で、今となっては大誤算だ。野党は首相の責任を追及する方針。再び「緩み」が表面化すれば、安倍政権には致命的な事態となる。

 首相は26日、今村氏の辞表を受け取った後、「被災地の皆さまの気持ちを傷つけた。極めて不適切で、信頼を失う重大な発言」とした上で、「あらためて被災地の皆さまにおわび申し上げたい」と謝罪した。

 今村氏の失言で、首相が謝罪するのは3度目。25日の失言直後に内容を伝え聞き、「今村切り」で腹を決めた。辞表受理の際も一切言葉をかけず、冷たく突き放した。閣僚辞任は12年の第2次安倍政権発足後、5人目だが、昨年8月に船出したばかりの第3次安倍再改造内閣では初めてだ。

 政権として重視する震災復興への司令塔が、被災地への心ない発言で辞任。政権には大打撃だ。

 ただ、今村氏を閣僚に任命したのは首相だ。当選7回の今村氏は、党内に約60人いる「大臣待機組」の1人として悲願の初入閣を果たしたが、「適材適所より、在庫一掃」が現実だ。二階俊博幹事長率いる二階派からの起用は、実力者への配慮もにじんだ。「そもそも閣僚の資質がなかったのでは」と痛いところを突かれた首相は任命責任を認め、謝るしかなかった。

 今月4日、今村氏の最初の失言後、野党の閣僚辞任要求を突っぱねたのも、首相だ。続投判断が結果的に、首相を苦境に陥れた。

 安倍政権では、閣僚や政務官に失言や女性問題が続発。首相は「緩みがあるのではないかとのご指摘は、真摯(しんし)に受け止めなければならない」と述べた。復興相ポストを二階派から引き揚げ、自身の出身派閥・細田派に所属し、福島県選出で人柄にも定評がある吉野氏を初入閣させ、体制立て直しを急いだ。

 「今村ショック」でこの日の国会審議は止まり、国会運営の混乱も引き起こした。野党は来月8、9両日、衆参両院の予算委員会集中審議で、首相の任命責任を追及する。今後、政権に新たなスキャンダルが出ない保証もない。政権が今国会中の成立を目指す、「共謀罪」法案の審議も不透明となり、ショックを引きずったまま小池ブームに押され気味の東京都議選に、突入する可能性もある。「1強」政権に、誤算が積み重なってきた。【中山知子】