「希望の党、乃木涼介です。知名度も時間もありません」-悲痛な訴えがなにわナンバーの選挙カーから流れる。民進党公認で大阪7区から出馬の準備を進めていた俳優の乃木涼介氏(53)は、希望の党と日本維新の会の調整で大阪から立候補することができなくなり、縁もゆかりもない神奈川15区に国替えとなった。河野太郎外相(54)の牙城だ。
茅ケ崎駅近くに窓のない8坪の事務所が見つかったのが公示3日前。固定電話とファクスも引けなかった。800カ所の掲示場にポスターを貼る人手が足りず、最終的にバイク便も頼んで貼り終えたのは3日目の夜だった。
連続テレビ小説「マッサン」に鴨居商店の白井開発部長役で出演し、相葉雅紀と「ようこそ、わが家へ」で共演したキャリア30年の俳優だ。民進党の玄葉光一郎選対本部長代行、平野博文大阪府連幹事長に「大阪は維新でガタガタだ。乃木さん、大阪を立て直してほしい」と懇願され、大阪に移住し、1年以上、駅立ちを続けてきた。「大阪で準備万端整えていたんです」。党本部から3日午前2時に電話があり、午前9時までに書類を持ってこいと言われた。
「3時間で決めなければいけなかった。立憲民主はまだできていなかったから(※3日に設立届)、ほかに選択肢はなかったです」。泣く泣く神奈川に来たが、民進党は15区に擁立する予定はなかったため、連合は社民党の佐々木克己氏(62)支援が決定していた。「本部の指示で動いているのに、来たら連合はないわ、総支部はないわ、誰もいないわ。泣きたくなりました」。
前原誠司民進党代表と松沢成文参院議員が1度応援に入ったが、これから先、応援の予定はない。「まだ希望の党の誰ともしゃべったことがないんですよ。放置プレーもいいところですよ(苦笑)」。残り3日。情勢は「乃木は苦戦」(朝日)、「乃木は出遅れ感が否めず、浸透できていない」(毎日)と厳しい。「政治は非情ですね」とこぼしながらも「なんとか一矢報いたい」と懸命に手を振っている。【中嶋文明】
◆マッサン 14年9月から15年3月まで放送されたNHK朝の連続テレビ小説。ニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝と妻リタがモデル。ヒロイン役として米女優シャーロット・ケイト・フォックスの起用も話題になった。