18日に行われる芥川賞・直木賞選考会で、本城雅人氏(53)の「傍流の記者」が注目されている。東京新聞の名物匿名コラム「大波小波」も7日、「ミステリー、ファンタジー、歴史小説、恋愛小説が主流の日本の娯楽小説界において青臭いまでに『社会派』だ」と、注目作に「傍流の記者」を挙げた。本城氏はサンケイスポーツで巨人担当キャップなどを務めた元野球記者。スポーツ紙出身の作家が直木賞を受賞すれば、54年上期の有馬頼義(1918~80年)以来、64年ぶりになる。

 「傍流の記者」は、政治部が社の中枢を占める全国紙「東都新聞」で、キャップからデスクへ昇進する年齢を迎えた社会部の同期6人を描く連作短編集だ。ニュースを抜く姿だけでなく、人事、上司とのあつれき、保身など新聞社の内部が描かれる。デビュー以来、スポーツ物、新聞記者物を手掛けてきた本城氏は初めてのノミネートに「今までやってきたことが間違っていなかったと、ホッとした感覚が一番。スポーツや新聞記者物って一般的にノンフィクションで書くものじゃないですか。小説の世界で評価されているのかなとずっと疑問に思っていたんです。自分のやり方を貫いて良かったな、と思いました」と話す。

 新聞記者は40歳を過ぎると、デスクや管理部門に上がり、現場に出ることが難しくなることから「別の道を探すため」40歳から小説を書き始めた。「片道40分の行き帰りの電車の中で毎日書いてました」。8作目の「ノーバディノウズ」が松本清張賞候補となったのを機に44歳で退社した。毎日10枚は書く。「スポーツ紙で良かったのは毎日毎日50~60行は書かされたこと。書くことが苦じゃないんです」。選考会当日は担当編集者と打ち合わせをしながら待つ予定だ。【中嶋文明】

 ◆本城雅人(ほんじょう・まさと)本名・楠山正人。1965年(昭40)6月19日、神奈川県生まれ。明治学院大卒。89年、サンケイスポーツ新聞社入社。09年、松本清張賞候補、サムライジャパン野球文学賞大賞受賞の「ノーバディノウズ」でデビュー。同年、サンケイスポーツ退社。16年「ミッドナイト・ジャーナル」で吉川英治文学新人賞受賞。

 ◆スポーツ新聞出身作家 「直木賞物語」(文春文庫)の著者でホームページ「直木賞のすべて」を運営する川口則弘氏によると、日刊スポーツに在籍した有馬頼義が、54年上期「終身未決囚」で直木賞を受賞した。候補になったのは報知新聞の碧川浩一(57年下期「借金鬼」、60年上期「美の盗賊」)と日刊スポーツの松本孝(61年上期「夜の顔ぶれ」)で、「傍流の記者」は57年ぶり5度目の候補作になる。芥川賞は、東京スポーツの高橋三千綱が78年上期「九月の空」で受賞した。(敬称略)