最古参関取の佐田の海、11カ月だけ過ごした「熊本」を出身地としている理由とは?

最古参の関取、39歳の佐田の海(境川)が、出身地・熊本県に思いを寄せています。

熊本県に住んだのは、15歳で角界入りする直前の11カ月だけでした。それでも、熊本を「出身地」としている理由があります。

熊本は父・元小結佐田の海の出身でもありますが、それ以上に熊本で出会った人たちの温かさが心に残っています。

大相撲

◆佐田の海貴士(さだのうみ・たかし)1987年(昭和62年)5月11日生まれ、熊本市出身。本名・松村要。父は元小結佐田の海。中学卒業時に父の弟弟子である元小結両国の境川部屋に入門。2003年春場所初土俵。2010年名古屋場所新十両、2014年夏場所新入幕。最高位は西前頭筆頭。三賞は敢闘賞3回。金星1個(日馬富士)。得意は右四つ、寄り。181センチ、141キロ。

神龍八大龍王神社で手を合わせる佐田の海。帰省すると必ず、参拝する(津野田氏提供)

神龍八大龍王神社で手を合わせる佐田の海。帰省すると必ず、参拝する(津野田氏提供)

故郷・熊本

2026年7月28日午後4時27分。令和8年熊本地震が発生した時、佐田の海は東京・足立区の自宅で娘と遊んでいた。

地震の発生は、スマホで情報を得た妻の麻里菜さんが教えてくれた。

熊本市に母ゆかりさんが、阿蘇市には父方の親戚が住んでいる。母に電話すると、仕事帰りの車中だった。

「体感なんでしょうけど、道路が波打っていたと言っていました。家の中は、モノが倒れていたりしていたけど、壊れたりはしていなかったようです」

暑い時期の避難所は大丈夫だろうか。そんな思いが頭をよぎった。

親友の津野田聡さんとも連絡が取れた。「1発目の揺れは、前回より強く感じたと言っていました」。

おもてなし武将隊の加藤清正(左)と佐田の海(津野田氏提供)

おもてなし武将隊の加藤清正(左)と佐田の海(津野田氏提供)

10年前の2016年4月にも、熊本地震があった。その数週間前に、熊本城でのイベントに参加したばかりだった。「ふと、上ってみるか」と思い立って熊本城の天守閣に足を踏み入れた。6階156段の階段を上った先には、素晴らしい景色が広がっていたことを覚えている。

故郷・熊本―。

父は引退後に親方になっていたため、佐田の海は東京で生まれた。父が日本相撲協会を退職した後、父の仕事の関係上、小学6年の12月から中学2年の1月まで、愛知県犬山市で育った。その後、中学2年の2月から中学3年の1月まで、熊本市に移り住んだ。

それぞれの土地に思い出があり、友人がいる。中卒と同時期に境川部屋へ入門するため1人で上京した佐田の海にとって、熊本は力士になる直前11カ月を過ごした場所だ。

節分の豆まきをする佐田の海(右)

節分の豆まきをする佐田の海(右)

みんな優しかった

力士は、出身地とともにある。取組前、どの力士も「佐田の海、熊本県出身、境川部屋」のように出身地がアナウンスされる。出身地が四股名に表れる力士も少なくない。「江戸の大関より、故郷(くに)の三段目」と言われるとおり、地域とのつながりは大相撲ならではの世界観だ。

出身地は、どこを登録してもいい。生まれた地、育った地を選ぶことが一般的だが、力士によっては住んだことがなくても親の出身地にすることもある。

初土俵直前の松村要(2003年2月撮影)

初土俵直前の松村要(2003年2月撮影)

佐田の海は、出身地を決めた15歳当時のことをおぼろげに覚えている。「『どこ出身でやるんだ?』って聞かれた記憶はないんですけど、自分自身も熊本出身でやりたいと思っていました。すごい濃い11カ月を過ごして楽しかったんです」。自然な流れで、熊本出身になった。

今や熊本に後援会があり、くまモンの化粧まわしはすっかり有名になった。11月の九州場所後の帰省など、佐田の海と熊本は、切っても切れない関係にある。

熊本の好きなところ、いいところはどういうところですか? 佐田の海に聞いた。熊本のうまいもの、名所などを答えてくれるかと待ち構えると、佐田の海は予想を裏切って、こう言った。

「なんですかね…。熊本だからかどうか分からないですけど、熊本だからではないと思います。自分が熊本に引っ越して、接した人がみんなやさしかった。温かく迎えてくれたんです。その人たちが、いい人たちだったっちゅうだけなんです」

東京から犬山市に引っ越し、ほどなく熊本にやってきた少年時代。「転校は1回経験していましたが、1回目が良かったから2回目も大丈夫だろうとはならないじゃないですか」。

望月旅館の風呂に入る佐田の海(津野田氏提供)

望月旅館の風呂に入る佐田の海(津野田氏提供)

「もう行かんでいいよ」

犬山市の中学校では、野球部に入り、捕手を務めていた。熊本市立西原中に転校しても野球を続けた。

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スポーツ

佐々木一郎Ichiro Sasaki

Chiba

1996年入社。特別編集委員室所属。これまでオリンピック、サッカー、大相撲などの取材を担当してきました。X(旧ツイッター)のアカウント@ichiro_SUMOで大相撲情報を発信中。著書に「稽古場物語」「関取になれなかった男たち」(いずれもベースボール・マガジン社)があります。