大震災で壊滅的な被害を受けた岩手県大槌町で、江戸時代から続く老舗「小川旅館」は「小川旅館 絆館」として仮再建され、震災翌年の12年12月から別の場所で営業している。おかみの小川京子さん(58)の心づくしの料理も評判だ。

旅館は津波と、その後の火災で骨組みしか残らなかった。避難所では住民同士のトラブルにも巻き込まれた。入院中だった母親の看病も重なって疲れ切り、死に場所を探し求め、首をつろうとしたこともあった。

つらい毎日の中、うれしい出来事もあった。津波と火災で手元にほぼ何も残らなかったが、息子が偶然、人気グループ嵐の下敷きが土砂の中に埋まっているのを発見。「お母さんが大事にしていた下敷きじゃない?」。津波で流されたのか、発見場所は自宅から100メートル離れていたが、息子の鉛筆と一緒だったことから自分のものと確信した。「ビックリした。他は何も見つからないのに。奇跡です」。少し傷ついてしまった下敷きは、今も大切にする。

松本潤出演のドラマを見て以来、嵐のファンになった。つらい時期の支えだった1つが嵐のヒット曲で、諦めない心を歌った「果てない空」だ。「私たちに寄り添ったような歌詞が心に響きます」。母親が入院する盛岡に向かう道中もよく口ずさんだ。被災直後の光景も浮かぶ。「がれきになった旅館を見た後、月が上がるのを見ました。建物が何もなくなって、よく見えた。本当に何もないんだなって。でも、頑張らないといけないと励まされる」。

墓も被災したが、旅館を仮再建して借金もあり、再建できずにいる。震災翌年に亡くなった母親の遺骨は手元に置いたままだ。「仕事が落ち着いた夜になると、(遺骨の)お母さんにグチをこぼしたり、空をながめたり、『果てない空』を聴くのが癒やし。気持ちが落ち着きます」。

嵐の活動休止には「残念だけど、いつか再開してほしい」。そして「嵐の歌で、元気になった人はいっぱいいると思う。いつか大槌にも来てほしい。みんなももっと元気になれる」と話した。【近藤由美子】