<大相撲夏場所>◇11日目◇21日◇東京・両国国技館

 大関稀勢の里(27=田子ノ浦)が、西前頭5枚目の勢(27)との「1敗対決」を寄り切りで制した。全勝の横綱白鵬(29)が豪栄道(28)に敗れたため、今日12日目の対戦は相星決戦となった。期待を裏切り続けた責任を背負って臨んだ今場所。初賜杯、そして綱とり再挑戦へ、思いをぶつける舞台は整った。

 稀勢の里は、勢に勝った後の支度部屋の風呂場で、さらに闘志に火がついた。扉を開けた白鵬の険しい表情で、今日の一戦が相星決戦に変わったと察知した。気持ちを静めるように、いつもより長く湯船につかった。報道陣の前に座ると「クーラーつけて」。熱くなった心と体を冷ましながら「普通にやれたら一番」「思い切っていけたらいい」。闘志を内に秘めた。

 昨年名古屋と今年の初場所で、綱とりの期待を裏切った思いは強い。今場所前にこう明かした。「一番上じゃないと影響力や発言力が違う。だからこそ横綱にならないと。もう子どもたちを裏切れないっしょ」。

 その言葉には自身の体験があった。小4の時、横浜スタジアムでプロ野球横浜の鈴木尚典と写真を撮った。その翌年に鈴木が首位打者を取るとプロ野球選手になりたいという思いが増した。「10年、20年後、相撲を取るのは今の子どもたち。稀勢の里と握手したと喜んでくれれば一生の思い出。その積み重ねが力士を目指すきっかけになる」。角界の未来に「横綱稀勢の里」の必要性を説いた。

 9連勝の勢には格の違いを見せつけた。立ち合いで左四つに組み止め、左下手を取った時点で勝負は決した。10秒間を置いて一気に寄り切った。無理に攻め急がない。今場所を象徴する落ち着いた取り口だった。

 白鵬に勝てば3人のモンゴル人横綱を上回り、単独トップ。日本出身力士として8年ぶりの優勝や、16年ぶりの横綱昇進への再挑戦が現実的になる。「今までとは違う。まあやるだけ」。少し笑みを浮かべて、車に乗り込んだ。【鎌田直秀】