引退の大久保正師「最後まで勝ちにいく」
3冠馬ナリタブライアンを育てた栗東の大久保正陽師(70)が、今月28日で引退する。ブライアン以外にもエリモジョージ、メジロパーマー、シルクジャスティスといった個性派を数多くターフに送り出した名伯楽。栄光と苦難、半世紀に渡る馬中心の生活にピリオドを打つ。調教師としてラストウイークとなる25日には、思い出のブライアン産駒、ブライアンズレターなど5頭をスタンバイしている。
騎手時代を含め、約50年に及ぶ“現役生活”も残すところ1週間。大久保正師は「引き継ぎや厩舎の片づけなどがあって、あまり実感はないかな」。そう言って静かにほほ笑んだ。
多くのG1(級)馬を育てた師だが「成績面ではやはりナリタブライアンが印象に残る。最初からいけると思っていた。早めに賞金を加算したかったから、2勝目を上げるため福島(きんもくせい特別)まで遠征したんだ」。
クラシックを狙う有力馬としては異例のローテだが、73年のダービー馬コーネルランサー(福島で未勝利勝ち)を参考にして決断。3冠への足がかりとした。仕上げの手腕だけでなく、レース選択の正確さにも定評があった。
最後の1戦、高松宮記念は物議を醸した。3冠馬の短距離G1挑戦。当時を振り返り「マスコミの人からは、嫌われただろうな」と笑う。だが、今でもその選択には自信を持っている。「本当に強い馬は距離なんて関係ないんだよ。ブライアンに“勤続疲労”のようなものもあったが、もちろん勝てると思ってた」。
98年に死んだブライアンは現在、新冠町のCBスタッドで眠る。師は毎年、夏になると車で北海道へ出向く。栗東の自宅から名神高速に乗り、北陸道→磐越道を経て福島県の天栄ホースパークで1泊。その後また北上し仙台へ。いとこが経営するペンションで1泊。時おり、青森の牧場に立ち寄り青森港からフェリーで函館へ到着。その道のりは約1000キロに及ぶ。
胃を全摘出するほどのガン手術を受けたにもかかわらず、バイタリティはまったく衰えていない。先週まで595勝。節目の600勝まで1週間で5勝は厳しい数字だが「いやいや、まだ分からんぞ。最後まで勝ちに行く」。ラストウイークとなる今週は、阪神で5頭がスタンバイ。25日の御堂筋Sにはブライアン産駒のブライアンズレター(牝7、1600万)が、また26日には孫にあたるテンエイヤシャオー(牡3、500万)が出走を予定。思い入れのある血統の馬で、有終Vを目指す。
3月以降は、しばらくゆっくりする予定。「声をかけてくれた牧場もある。どういう形かは分からないが携わりたい。これからも人と馬と接していたい」。管理馬は、息子である大久保龍、岡田、北出の各厩舎に移る。「その馬たちの活躍も見守るよ。孫たちとの時間も増えるしね」。見つめた携帯電話の待ち受け画面には、4カ月になる孫娘の笑顔が輝いていた。勝負師としての“顔”も、あと少しだ。【高橋悟史】
[2006/2/21/08:40 紙面から]
写真=94年5月29日、第61回日本ダービーを制した南井騎手のナリタブライアンと大久保正陽調教師(左)
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