【ヤマコウの輪界見聞録】

 福井G3が始まる。今回の目玉は、地元脇本雄太の先行力だろう。度重なる落車や骨折で、今では競輪選手に最も必要とされるタフさを手に入れた印象だ。

 4月に行われた防府G2共同通信社杯で落車の後、中2日で平塚G3に強行参加した。初日に落車したので実際は中5日になったが、前検日に現れた脇本の肩や足の擦過傷は痛々しかった。実際「全く調子、良くないです」と弱気な言葉が多かった。

 しかし初日特選、圧倒的人気を集めた武田豊樹を8番手からのホームまくりで一蹴。観客や選手から驚きの声が上がった。2日目からは息が切れた感じだったが、精神的にも大きく成長したと感じた。

 デビュー当初の緊張からくる、発走機でのパフォーマンス(私はそう思っているが)は、すっかりファンからも認められ、今では掛け声まで掛かるほどの人気だ。しかし、極度の緊張から、発走機上で吐いたこともあるそうだ。その日は雨で周りに気付かれなかったが、終始口の中が酸っぱかったらしい。

 それほど緊張する選手が、今や先行日本一の選手になった。どちらかというとほめられて伸びるタイプだが、自力選手の層が厚い近畿地区でよくここまで強くなったと思う。いろんなバリエーションの先行を武器に、対戦相手はいやが応でも脇本に振り回される。この開催も、ワッキーの先行を見に来るファンはたくさんいるだろう。(日刊スポーツ評論家・山口幸二)