バヒド・ハリルホジッチ監督(64)率いる日本代表が、UAEに1-2で逆転負けし、黒星スタートとなった。W杯アジア最終予選のホーム戦で敗れたのは、97年9月28日韓国戦(1-2)以来19年ぶり。埼玉スタジアムでのW杯予選不敗神話も18試合で消滅。現行のホームアンドアウェー方式になってから、同予選の初戦を落とした国は、本大会出場を果たせていない。チームは「確率0%」からの巻き返しを強いられた。

 自陣でのラストプレーを前に、ハリルホジッチ監督はピッチ横からベンチに戻り、力なく座り込んだ。白いタオルで、ゆっくりと顔の汗をぬぐう。「非常にがっかりした。現実で、我々の実力が示された」。試合終了の笛。UAEの選手たちがピッチにひざまずき、神に感謝した。その光景を遠目に見ながら、指揮官は脱力したように、しばらくベンチから立てずにいた。

 負けられない戦いだと承知していた。W杯アジア最終予選では、現行のホームアンドアウェー方式になった98年大会以降、初戦を落とした国が突破した例はない。前日には「当然、そのことも把握しています」と明言していた。UAE戦に向けてビデオ分析などを徹底。指揮官は「相手の出方は完全に分かっている」と言い切り、入念なミーティングで対策を選手に落とし込んだ。

 これまで最終予選で中東勢にホームで負けたこともなかった。しかしふたを開ければ、これまでのイメージを覆すような、がっぷり四つの戦いになった。「期待通りのプレーができなかった。疲労もある。なぜこの選手を選んでしまったのかと疑問を抱きもした。でもそれ以外に選手がいなかった」。一進一退の攻防に持ち込まれたことで、微妙な判定が勝敗を分けることになってしまった。

 1点をリードされた後半23分にはFW宇佐美が、ペナルティーエリア左サイド付近で倒された。しかし判定はノーファウル。激高した指揮官は、ベンチ前のタッチラインを踏み越え、5メートル以上もピッチ内に入って猛然と抗議した。

 同32分にはゴール前の混戦から、最後はFW浅野が左足ボレーで押し込んだ。映像を確認しても、ゴールラインを割っているが、得点は認められず。疑惑の判定に「ラインをしっかり越えたようにも見えた。普通はラインを割ったらゴール」と苦虫をかみつぶした。

 給水ボトルを蹴り上げて激怒する場面もあったが、やがて抗議する元気も失っていった。最後は打つ手をなくし、ベンチ前で片ひざをつき、祈るように自軍の攻撃を見守るしかなかった。「今夜は厳しい結果が出たが、事前にベストの試合はできないと予想してもいた。2試合目までには疲労も回復し、プレースピードを上げてくれると期待もしている」。最後は言葉に力を込めた。【塩畑大輔】

 ◆初戦重要 W杯アジア最終予選は来年9月までの長丁場だが、初戦は10分の1以上の重要性を持つ。最終予選がホームアンドアウェー方式となった98年フランス大会以降、予選を勝ち抜いた延べ18カ国の初戦成績は13勝5分けと負けなし。黒星スタートでW杯に出場した例はない。ホームに限れば7勝1分けと確実に好スタートを切っており、データ上は日本に逆風が吹いている。