サッカー女子日本代表「なでしこジャパン」の高倉麻子監督(50)が、ワールドカップ(W杯)ロシア大会へ臨む男子代表へエールを送った。なでしこは4月の女子アジア杯で2連覇を成し遂げ、男子に続く来年6月の女子W杯フランス大会へ弾みをつけた。大舞台での運命を決めるポイントには、チームを率いる指揮官の“決断”を挙げ、自身の経験も交えながらサムライブルー(男子代表)の躍進を期待した。
◇ ◇
なでしこジャパンがヨルダンでアジア杯を戦っていたちょうどその頃、日本で大きな決断が下された。ハリルホジッチ監督が電撃解任され、西野朗新監督が就任。高倉監督も驚きを隠さなかった。かつて西野監督がG大阪の監督に就任した02年から2年間、同クラブのコーチを務めていたのが高倉監督の夫で、現在J2東京VのGMを務める竹本一彦氏。そんなつながりもあり、食事をともにするなど西野監督との親交は深い。ロシアへ出発する前にも、日本で会話を交わした。「『勝ち方、聞きたい?』って、冗談で言いましたね。そうしたら『教えてくれよ』って返されました」。
高倉監督はアジア杯での勝負の分かれ目に、自身の信念をも曲げたひとつの“決断”を挙げた。「決勝で戦ったオーストラリアとは、1次リーグでも対戦しました。でも、2試合とも先発を変えなかった。私って結構メンバーを固めないんだけど。その時はコンディションの良さとか、選手がちょっと(相手に)慣れたのもあった。決断する時って結構大変ですよ。選手にどのタイミングでどう伝えるかとか。チーム全体に3つのことを言ったから、(個別に)何を言おうとか。いつも考えていて、頭をぐるぐる回っていた」。心の重りがとれたようなスッキリした表情で振り返った。
アジア杯を迎えるまで、なでしこの下馬評は低かった。昨年12月の東アジアE-1選手権や、3月のアルガルベ杯で勝ちきれない試合が多く、風当たりも強かった。それでも、アジア2連覇という最高の結果で周囲の見る目を変えさせた。「みんなが『おめでとう』と言ってくれるのでよかったなと思います。不安の声が大きかったので。でも、楽観する内容ではなかった。それは選手も、そして私が一番わかっています」。
高倉監督は、選手としても女子W杯に2度出場した経験を持つ。大舞台でのプレーについて、かみしめるように語った。「チームが大会中に良くなってとかはあるけど、結局、日ごろやっていること以外は出せない。ということは、普段どういう練習をしていたか。いつも100%でやってる人は、いざその場に立っても普段通りできて、やってない人はジタバタする。大事なのは日ごろで、そこに来たら自分の持っているものを出し切る。ただそれだけ。ミラクルとか、そういうことももちろん起こり得るんですけど、心構えとしてはチーム一丸となって戦うというところですね」。
ロシアへ向かったサムライブルーも、境遇はアジア杯前のなでしこと似ている部分はある。重ね合わせるように、エールを送る。「今はもう西野監督がベストと判断した選手たちを応援するべきだと思う。日本の歴史の1ページを作ろうとしているので私は楽しみにしているし、結果が出てほしい気持ちもある。西野さんも監督を引き受けた時点で覚悟は決まってると思います。難しいのは確かだけど、黙って引き下がる選手たちじゃないと思う。まずは初戦で何か起きてくれないかなと思っています」。
今からでも、試合終了の笛が鳴るその瞬間まで運命は変えられる。ロシアでは、どんな決断が待っているのか。その勇姿をしっかりと見届けるつもりだ。
◆高倉麻子(たかくら・あさこ)1968年(昭43)4月19日、福島市生まれ。読売ベレーザ(現日テレ)、米シリコンバレー・レッドデビルズなどでMFとして活躍した。84年のイタリア戦で日本代表デビュー。91、95年にFIFA女子世界選手権(のちのW杯)出場。国際Aマッチ通算79試合30得点。04年に現役引退。13年から監督として女子の年代別代表を率い、同年のU-16アジア選手権優勝、14年のU-17W杯優勝。16年4月にA代表にあたる、なでしこジャパンの監督に就任した。