女子マラソン04年アテネ五輪金メダルの野口みずき(37=シスメックス)が、現役を引退する可能性が高くなった。最後の五輪挑戦と公言して臨んだ2年7カ月ぶりのフルマラソン。5キロ過ぎで先頭集団から遅れ、2時間33分54秒の23位に終わった。沿道などで声援を受けて「愛されていたんだな」と涙を流したが、完全燃焼を強調。進退について即答は避けたが、ひと区切りとなる。

 原点にして終着点だった。野口はラスト10キロで声援に包まれた。02年に初マラソンで初優勝した名古屋。先頭もリオ切符も見えなかったが「花道のように感じた。けがで苦しんだけど、ずっと私の名前を覚えていて、応援してくれる人がこんなにもいた」と泣いた。

 05年に樹立した日本記録2時間19分12秒の力はなかった。「私に衰えは絶対来ないと思っていた。でも去年ついに来た」。5キロすぎで先頭から遅れた。35歳を超えて悩まされた左足の力が抜ける症状だった。それでも13年世界選手権モスクワ大会の途中棄権が「心にひっかかっていた」という。広瀬総監督に「このレースだけはどうしても走りたい」とわがままを言った名古屋。2時間33分54秒で「(自己)ワースト記録ですが、最高のレースだった」と完走に胸を張った。

 故郷の三重・厚生中で友達に誘われて走りだした。長距離は好きじゃなかった。ある時、伊勢市の駅伝大会で優勝。校長先生がチーム全員にたい焼きを買ってくれた。「いい走りができれば、ご褒美があるんだな」。あんこは苦手だった。でも皆でほおばった味が忘れられなくて走ってきた。

 「最後の五輪挑戦」と明言して完全燃焼。進退について「少し休んで考えます」としたが「悔いの残らないレースができた」。東京五輪に未練はなく、このまま現役引退の可能性が高い。引退後は指導者ではなく、陸上の魅力を広く伝える仕事に興味を持っている。

 2連覇を狙った08年北京五輪は直前の故障で欠場し「非国民」とまで批判された。最近も故障欠場を繰り返し「走るのが怖い」と思う日もあったという。この日、ゴール地点のナゴヤドーム近くで声援に手を振った。「私、愛されていたんだな」と大粒の涙。レース直後、応援団の元を訪れて言った。「私のマラソン、42・195キロは最初から最後まで最高の42・195キロでした」。【益田一弘】