男子100メートルでロンドン五輪代表の山県亮太(23=セイコーホールディングス)が復活の走りをみせた。向かい風0・4メートルの条件下を10秒21で駆け抜け、日本勢最高の2位に入った。度重なる故障による低迷を抜けるため、昨年からゴルフの石川遼らを支えた名トレーナーと契約。体内から改善し、リオデジャネイロ五輪につながる走りをよみがえらせた。

 少しがっしりした体が、波立たなくなった心が、4年前を思い出していた。「緊張の種類が似ている。どこまで力が通用するか…」。号砲前の一瞬、山県に12年ロンドンの夏の記憶がかすめた。「ふたを開けてみないとわからない。自分の走りに徹しよう」。スタートこそわずかにミスしたが、すぐに集中した。前半から後半へ。「桐生に負けたくない」とわずかに力みが生じたが、競り負けずに駆け抜けた。

 以前ならもっと力んだだろう。腰痛で欠場が続いた昨季、苦しい中でライバルを認められた。桐生にサニブラウンら新星の台頭に焦りは募ったが、あえて映像を見て長所を探した。桐生なら力んでいるようで力が抜けている姿。「何かを得よう」。その気持ちになれたのがうれしかった。

 体も大きな変化をとげた。仲田健トレーナー(47)に師事したのは昨年6月。石川遼、元阪神の桧山進次郎氏らを支えた手腕に、目はうろこだった。血液検査で、ビタミンB群の不足が判明。疲労感につながり、エネルギー代謝が悪く、トレーニングしても筋肉にならない欠点が見つかった。サプリの摂取で「寝付きが良くなった」、さらに下半身など筋肉量もアップ。体重は4キロ増の71キロになった。

 桐生に先着したのは13年日本選手権以来だった。「自信になる。心にゆとりがもてる」。五輪参加標準記録10秒16の突破はならなかったが、「悲観はしていない」。4年前の思い出は、夏のブラジルで塗り替える。【阿部健吾】