スピード違反や駐車違反などで点数がかさみ、免停になったことがある方は少なくないだろう。しかし免停期間中に運転をしたいといって、停止された免許とは別に、新しい免許を取ろうと考える方は皆無だと思う。「停止された免許とは別だから、新しい免許は有効だ」などという言い分に、いったい誰が納得するだろうか。

 何が言いたいか。日本ゴルフツアー機構(JGTO)が示す、松山英樹(22)への処分“帳消し”のロジックには、首をかしげざるを得ないということだ。

 先日のダンロップ・フェニックスは松山と、米国の超新星ジョーダン・スピース、そしていまや国内屈指の実力者として認められた岩田寛が終盤まで激闘を演じ、大いに盛り上がった。

 そして松山が勝負強さを見せ、岩田とのプレーオフを制して優勝した。これを受け、JGTOの幹部は「松山はツアーメンバー登録さえすれば、来年も国内男子ツアーのシード権を持てる」と明言した。

 思わず聞き返した。松山は来季、日本のシード権を停止されるはずだったからだ。

 今季から国内ツアーは、複数年シードを持ち、海外ツアーのメンバーでもある選手にも、年間5試合の出場義務を課した。海外進出初年度は0、その後も3だった出場義務試合数を増やした形だ。

 これを満たさなければ、翌年のシード資格停止という処分を受ける。松山の今季国内ツアー出場は、7月の長嶋茂雄招待セガサミー杯と、今回のダンロップ・フェニックスの2試合のみ。日程的には他の試合にも出場は可能だったが、あえて出場試合数を減らした。

 昨年は日米をまたいだ強行転戦で、左手首のケガを悪化させた。そして米ツアーは世界最高峰の舞台。日米掛け持ちで疲れを抱えた状態で戦えるほど、甘い戦場ではないことを、松山は誰よりも知っている。

 だから国内5試合の出場を断念した。処分も甘んじて受けるつもりだった。それが今回、処分されないことになった。

 JGTOは「現在のシード資格とは別に、松山は今回の優勝で2年シードを取得した。だからあらためてメンバー登録すれば、来年も松山はシード選手です」と説明した。

 新しいシード資格を獲得しても、出場義務試合数には達しないという事実に変わりはない。なのに、なぜ処分が帳消しになるのか。

 問い直すと「その件については、予定通り懲戒制裁委員会にはかける」と答えた。だが、その結果を待たない現段階で「松山は来季シード権を確保できる」と言い切ってしまうスタンスは、最後まで変わらなかった。

 もしも、もともと“帳消し”可能なルールがあったと言うなら、7月にセガサミー杯で優勝した石川遼にも、その旨を説明すべきだった。

 石川もこの時、今回の松山と同様に、新たに国内2年シードを獲得した。JGTOのロジックで言うなら、石川もこの時点で、今季の出場義務試合数を達成する必要がなくなった。

 石川にはそんな説明はなかった。だからその後も日米をまたいだ転戦を重ね、9月のダイヤモンド・カップで出場5試合に達した。その後、シーズン終盤のこの時期に来て、降って湧いたようにこの「ロジック」が公になった。

 ノルマ達成の必要がないと分かっていれば、日程的にいろいろな選択肢を持てたはずだ。技術的にはまったく不調ではない石川が、ここ数試合成績が出ずに苦しんでいるのは、明らかに精神的な疲れを抱えているからだ。今回のJGTOの言い分を聞き、いま石川はどう思っているだろうか。

 さて、繰り返すが、松山本人は正々堂々、処分を受け入れるつもりだった。ただ、納得がいかない点はあった。松山は昨年の賞金王で、国内5年シードを獲得していた。

 その時点では、松山にとって海外進出初年度となる14年の国内出場義務試合数は「0」だった。だからこそ、左手首の痛みと闘いながら、無理な連戦を続けて賞金王になったのだ。

 それが今年3月になってから、義務試合数が5に増やされた。完治に半年がかかるほど、ケガを悪化させつつ賞金王を取ったのは、何のためだったのか…。ケガをかばってスイングを崩したことで、米ツアーの13-14年シーズン終盤は、ショット不振も長く続いた。

 そんな中さらに、JGTOの海老沢会長が「スポーツマンならルールを守ってほしい」と出場義務の順守を求めるコメントをしたとの報道まで出た。松山の胸には、やるせない思いが去来しただろう。

 松山も石川も、日本のツアーを愛している。だから松山は、限られた出場機会となった今回のダンロップ・フェニックスで、最高のプレーをみせた。「勝たなければという重圧は大きかった。かつてないほどに集中して4日間戦うことができた」という言葉を聞けば、それは明らかだ。

 今回の処分帳消し、そして来季のシード権発生の報を聞いても、松山のスタンスは変わらない。「今年と同じだと思います」と、来季も「5試合」にこだわらないことをほのめかした。

 疲労を蓄積させず、ケガをしないことで、目標の海外メジャー制覇を果たす。一方で数少ない国内ツアー戦出場の機会にも、最高のコンディションで臨んで、最高のプレーをみせる。それこそが日本のゴルフファンを喜ばせる最良の道だと心得ているからだ。

 ルールがあろうがなかろうが、選手はそれぞれの形で、国内ツアーに恩返しをする。なのにあえて、厳しい規定を課する必要はあるのだろうか。しかもその規定を、その場その場の都合に合わせて解釈してきた。

 実は松山が「5試合」を達成しない問題が表面化しはじめた9月、JGTOが「米ツアー、欧州ツアーで優勝した選手は、出場義務試合数が3試合でいい」という見解を示しだしたこともあった。

 松山、石川陣営はともに「そんな説明は受けていない。そんなルールあったの?」と首をかしげていた。そして今回のシード復活ロジック。多くの選手、関係者に「毎度毎度ブレている」と批判されても仕方はない。

 今回の帳消し劇は、一部で早くも「松山ルール」と呼ばれ始めている。松山にとっては、イメージにかかわる迷惑千万な話だ。

 ファンが望むのは、選手が首になわをつけられて、引っぱられてくることではない。選手が最高のプレーをみせてくれることだ。

 それを分かっていれば、後々破綻をきたすような、無理なルール改正もなかったはずだ。結局JGTOは、義務試合数を再び減らす方向で調整を始めている。試合数確保に悩むだけに、スポンサーに「松山も石川も5試合は出る」と約束したかった気持ちは分かる。しかし2人が最高のプレーをみせ、ゴルフのファン層が拡大することの方が、長期的に見ればスポンサーに利益をもたらすことになると思う。【塩畑大輔】