熊本県益城町(ましきまち)で震度7を観測した地震から一夜明け、益城町出身のプロ8年目、永野竜太郎(27=フリー)が首位と2打差の2位と踏ん張った。熊本県内では建物の倒壊などによる9人の死亡が確認され、今も7300人以上が避難所にとどまっている。そんな中、被災者に勇気を与えるためにもツアー初優勝を目指す。

 永野は耐えた。前夜、故郷を襲った大地震に「変なゴルフはできない」と心に決めていた。やはり熊本市出身の重永らと同組でスタート。4番で7メートルのパットを沈めて3連続バーディーとし、力強く拳を握った。永野らのことを知ってか、この組に多くのギャラリーが集まり、熱い声援が飛んだ。

 その後は、強風に苦しんだ。8番、10番でボギー。「つまずいて、悪い流れになったけど、そういうこと(地震)があったから、気持ちを切らさず、強い気持ちでいられた」。必死に自分を鼓舞し、出場選手の平均スコアが74・806の中、「許容範囲」(永野)の72と踏みとどまった。

 震度7を観測した益城町は、木山中卒業まで過ごした地で、現在も祖父孝之さん(80)が住む。「小中って、一番楽しい時を過ごしたところ」。中学校には片道5キロを自転車で通った。ゴルフの練習をさぼって山の中で遊んだのが一番の思い出。「今でも帰ると、友達も多くいるので心が落ち着きます」。ゴルフの腕を磨いたのは、孝之さんが経営する牧場の片隅につくられた練習場だった。

 前夜はテレビで地震を知った。母益美さん(54)に電話すると運良くすぐにつながり、孝之さんをはじめ家族の無事が確認できた。自宅では仏壇などが倒れたが、母からは「いつも通りやっておいで」の励まし。だが、テレビで見る映像は「普段通っている道路が陥没していたり、いつもの光景と違いすぎて、本当にあそこなのかな…と…」。のどかで交通量も少ない故郷がパニックのように渋滞していた。「逆に何の感情も湧かなかった」。ぼうぜんとするしかなかった。

 合間にも友人、知人とも連絡を取り合った。家の瓦が落ちた友人もいた。「でも落ち込んでいる様子はなかった」。むしろ力をもらった。「自分が落ち込んでいられる場合じゃない」。まずは自分のできること、目の前のゴルフに集中するだけだ。「自分が成績を出すことで、いい方向にいってくれれば」。地元の人の励みになるよう力を尽くすだけだ。

 「避難所で足りないものがあるとFacebookにもあったので、お金だけじゃなくていろいろ支援できれば」。郷土愛を胸に残り2日間を戦い抜く。ツアーでは過去2位が2回。待望の初勝利を熊本に届けたい。【岡田美奈】

 ◆永野竜太郎(ながの・りゅうたろう)1988年(昭63)5月6日、熊本県益城町生まれ。10歳からゴルフを始め、中1で熊本空港CCのクラブ選手権に優勝。茨城・水城高に進み、2年時に日本アマで金庚泰に敗れて準優勝。東北福祉大2年時に出場予選会に挑み、09年プロデビュー。12年にKBCオーガスタ4位など賞金ランク62位でシード獲得。14年スリクソン福島オープン、昨年日本ツアー選手権で2位。181センチ、85キロ。