2020年東京五輪・パラリンピック大会公式エンブレムに決定した「組市松紋」をデザインした東京都のアーティスト野老朝雄(ところ・あさお)氏(46)は25日、都内で行われた発表会見に出席し「頭の中が真っ白」と話した。卒業した東京造形大で建築を専攻も、模様や柄のデザインが専門。活動範囲は建物の壁面から洋服、国際博覧会、車のシートまで、多岐にわたる。野老氏は「いろいろな形で展開することを考えている」と意欲を語った。

 「長く時間をかけて作ったわが子のような作品です。本当にありがとうございました」。公式エンブレムに決まった紺一色の「組市松紋」と同じく、紺のシャツに紺の上着を着て登場した野老氏は、うれしそうに話した。組織委の森会長から表彰状を受け、エンブレム委員会の宮田亮平委員長からトロフィーを渡された。王貞治委員からも祝福された野老氏は、会見で「非常にうれしいです。同時に緊張しています」と話した。

 作品は江戸時代に「市松模様」として広まった和柄を日本の伝統色の藍色で描き、「粋」さを表現した。形の違う3種類の四角形を組み合わせ、国や文化・思想の違いを示した。

 野老氏は「1つ1つの(四角形の)ピースは45個あります。五輪もパラリンピックも、同じピースを組み立ててつなげた」と説明した。「平等の精神」を両エンブレムに込めた。

 応募のきっかけは、開かれた公募だったことと、子どものころからあこがれた五輪の「金メダル」だった。「金メダル作りに関われるんじゃないかと」。必ずしもエンブレムがメダルに使われるかは分からないが、印象に残る選手は、84年ロサンゼルス大会から4大会で9つの金メダルを獲得した米陸上選手カール・ルイスと話した。

 模様、柄が専門分野のアーティスト。05年の愛知万博ではトヨタパビリオンのキーとなるチョウのモチーフのデザインを担当。映画館のカーペットの模様、高級賃貸マンションのタイルの模様から、洋服の柄、フォルクスワーゲンジャパンとズッカがコラボした車のシート柄など、活動範囲が多彩だ。「組市松紋」もシンプルで、さまざまな展開が可能。エンブレム委員会も多様な展開に期待しており、野老氏も「いろんな可能性があると思う。指輪サイズからグッズ、都市、上空から見た造形など。サッカーボールにも張れる」と話した。

 「柄」「紋」「図」をデザインの仕事の中心に据えたのは「01年9月11日から」。米中枢同時テロの起きた日だ。「『大きな断絶』に対して『くっつく』、というのが自分の大きな主題。今回のエンブレムも同じです」。違いはあってもつながり合う四角形が作り出す市松模様に「多様性と調和」のメッセージを込めた。【清水優】